ダーラム連邦検事が登場した背景

 さて、ここまでで話は終わりである。第2弾のホロウィッツ報告書は内部調査であり告発権限がない。ほとんどの米メディアは本件をトランプ弾劾と比べて小さく扱っており、日本のメディアも詳細には報道していない。トランプ大統領は17の不正行為が発見されたことに演説で言及したが、「トランプ大統領によるいつもの大げさな批判」というのが大方の反応だった。

 ところが、この報告の一部に対してダーラム連邦検事が異を唱えたというのが冒頭の話で、下院民主党議員11人による辞任勧告につながっている。

 ダーラム連邦検事は刑事事件としてこの問題を調べており、取り調べを歪曲(わいきょく)した人々や文書を作ったスティール氏、またニューヨーク・タイムズによれば2016年当時、オバマ政権下でCIA長官を務めたブレナン氏にも調査は及んでいる。本格的だ。

 同紙によれば、ダーラム連邦検事の正義感はとても強く、米国の刑事ドラマに出てくるような、ささいな事象を見逃さず、最後まで問題を解き明かす刑事そのものだ。

 トランプ大統領は彼の調査に高い期待を示している。FOXニュースも、彼の公式ステートメントが出た段階で、2020年はトランプ弾劾とペイジ事件の戦いだとする識者のコメントを報道した。

 今後、数カ月のうちにダーラム検事の報告書が公表されれば、FBIなどの連邦政府に働く人々の公僕としての忠誠心に疑念が生じるだけでなく、オバマ政権の関係者などにも影響が及びかねない。

 11人の民主党の下院議員が、司法省のホロウィッツ監察官の報告書とは別に、バー司法長官が別々の連邦捜査官に同じ事件を調べさせたことなど、司法省として一貫性に欠ける対応を批判、バー氏に辞任を求めた背景もここにある。

 ペロシ下院議長が、弾劾裁判の採決理由をウクライナ疑惑から権限の乱用と議会妨害という一般的な2つに変更してまでも弾劾採決を急いだ後、その結果を上院に送るのを遅らせた理由は、ペイジ事件の報告に弾劾ヒアリングをぶつけて問題をうやむやにすることにあるのかもしれない。

 2020年は大統領選挙の年。4年間の大統領の政策の是非が総括されることが通常だが、ペイジ事件は前回の大統領選で生じた問題が次の選挙を左右するという極めて珍しいケースになる可能性がある。しかも、「モラルのない大統領」と長らく批判してきたにもかかわらず、実は批判していた民主党こそがモラルに欠けるという事実を示すものだ。

 この問題は米国の国益のために行動しているのは誰かという大きな国内問題だが、米政界や諜報機関のみならず、世界情勢にも影響を与える可能性が高い。

この記事はシリーズ「酒井吉廣の「2020年米大統領選」〜トランプ再選を占う」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。