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「提携は、将来一つの大きな会社になる母体だ」

 経歴には下積みの期間がない。それだけ経営者としての経験が長く、ミシュラン・ブラジルのCOOとなってから数えるなら14年になる。事実ゴーン氏は、自他ともに認めるルノーの次期CEO候補にほかならない。

 ルノーの執行役員(日本企業なら役員)は総勢7人。ゴーン氏を除いて全員50歳以上で、シュバイツァー現CEOと去就を共にする世代だ。ここでゴーン氏のみが一回り若いという状況は、シュバイツァー氏が43歳でルノーに入ったときに酷似している。

 あなたの経歴は、シュバイツァー氏の足跡を思わせる。日産との提携を成功させたら、パリ本社に戻って本体のCEOになるのではないか。

 こう聞いたところ、言葉が間髪を容れず出てくるこの人には珍しく、無言の微笑で答えた。

 あるいはこんな可能性すら考えられる。契約では今後5年以内に、ルノーは日産株式の持ち分を44%まで増やせる権利をもっている。それならいっそ、日産を完全に合併してしまう。新会社となった暁、ゴーン氏が全体を束ねるCEOに就くという筋書きは──。

 「今は日産の再建以外念頭にない。それは執念と言ってもいい」とゴーン氏は答え、しかしこう付け加えた。

 「けれど、もし日産の競争力を復活させることができたなら、その時には両社を合併し『ルノー日産』とすることがはるかに容易になっているだろう。今後5~10年のうち、自動車業界には一層の再編が起こる。この提携も、将来一つの大きな会社になる母体だ」

 「すべては今後にかかるし、誰が何をするかなど神のみぞ知る」とゴーン氏は言うものの、生来「競争にさらされるのを好む」と自ら述べるゴーン氏の頭上に、成功すればという大条件つきにせよ、世界で五指に入る自動車会社トップの座を狙える可能性が出現したわけだ。およそ氏に野心があるなら、ここに向けずしてどこに向けようというのだろう。ちなみに5年後ゴーン氏は50歳。シュバイツァー氏がCEOになった時の年齢と、ちょうど同じになる。