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 思いのほかお待たせしてしまいました。『マツダ 心を燃やす逆転の経営』で聞ききれなかったお話を拾っていくこちらの連載、ようやく再開となりました。

 科学ジャーナリストの松浦晋也さん(日経ビジネス電子版「介護生活敗戦記」著者)に、書評で「面白いけど金井さん以外の話も読みたい、2段組にして1冊で全部読ませろ(要約)」と怒られました(こちら)。いや、私だってできることならそうしたかったのですが、となるといくら待っても取材が終わらなくなりそうで、まずは改革の図面を描いた金井さんのお話に集中させていただいた次第です。

 この連載では、全体図のお話の中では十分に描けなかった、改革のそれぞれのパートのキーパーソンに、本と同じスタイルでインタビューを行っていきます。前パートでは木谷昭博さん(執行役員・MDI&IT本部長)に、マツダのシミュレーション技術のお話をうかがいました。

 今回は、2012年以降がらりと変わったマツダ車の外観=「魂動(こどう)デザイン」を生み出した、前田育男さん(常務執行役員・デザイン・ブランドスタイル担当)にインタビューします。

前田育男さん

 前田さんのお話だけでも十分以上に面白いですし、書籍で語っていただいた金井さんのエンジニアリングや企業風土変革のお話と対照すれば、いろいろな歯車がかみ合っていく様がうかがえて、さらに興味深く読んでいただけると思います。もちろん、本を読んでいただいた方には、「あの本のこの話は、前田さんから見るとこうなるのか」という、さらなる驚きを味わっていただけるのではないかと。

 どうぞごゆっくりお楽しみください。

(編集Y)

編集Y:いきなりですけれど、前田さんが書かれた『デザインが日本を変える 日本人の美意識を取り戻す』(光文社新書)は本当に面白かったです。

前田育男マツダ常務執行役員・デザイン・ブランドスタイル担当:ありがとうございます。

編集Y:マツダのデザイン、カタチそのものと、それを表す言葉「魂動」には、それぞれに役割がある。「言葉はカタチの一部だ」、だから両方が必要だ、という前田さんの宣言に、強く共感いたしました。

まずカタチがあった上で、それを体現する一言があることでカタチは一層明確な像を結び、相手に伝わりやすくなる。つまり大事なのは、カタチと言葉――まるで車の両輪のように2つが並び揃ってこそ初めて相手を動かす力が生まれるのだと私は固く信じている。

【『デザインが日本を変える』45ページより】

編集Y:我々の商売でいくと、例えばこういうウェブの連載ですと、見出しが「言葉」で、中身が「カタチ」というか、実質と見立てることができると思います。

前田:へえ。

編集Y:見出しで派手に興味をひいておいて、とにかくクリック数を稼げばいいんだよというやり方もあるし。

前田:まあ、あるでしょうね。

編集Y:逆に、非常に誠実な見出しでも、まったくフラットだと「だからどうした」「ああ、そういう話ね」と思われちゃって、誰も読んでくれない。ある程度の品の良さを保ったうえで、ある程度「ドキドキさせる」部分もいるよね、と思ったりするんです。

前田:なるほど。これは本でいうと、タイトルを含めた「カバーデザイン」と「中身の文章」、ってことになるんですか。

編集Y:(うっ、食いつかれた。プロのデザイナーの方相手に、何でこんな話から入っちゃったのか、と若干自分に呆れつつ)そうですね。カバーはもちろんですけれど、開いたページ自体も、文字の大きさ、フォントの選び方、余白の空け方、紙自体の質感などなどで、クールな印象になったり、親しみやすくなったりします。

前田:それで狙い通りの印象を与えるのは、かなり難しそうだな。

編集Y:でも、デザイナーさんにお願いすると、本当に変わるんですよね。同じ日本語のページでも、親しみやすさとか読みやすさとかはいくらでも変えられる。

デザイナーの中川英祐さんに「熱気むんむんの真っ赤っかで、誰が見ても『マツダの本だ』と分かるように、負けん気で燃えているデザインをお願いします」と依頼しました(編集Y)。

 もちろん「読む人に向かって話し掛けてくる雰囲気が出るようなデザインを」とお願いすれば、その通りに仕上げてくださるデザイナーさんもいれば、「じゃあ、この文字数がここに入ればいいんですね」という感じで作ってくる方もいます。『マツダ 心を燃やす逆転の経営』は前者の典型で、デザイナーの中川英祐さんに「とにかく、熱量が伝わるようにお願いします」とやったら、願い通りというかそれ以上に仕上げてくださいました。

前田:ああ、それは分かる気がする。この『マツダ 心を燃やす……』は、金井さんらしいと思う。

編集Y:ちょっと暑苦しいかもしれませんが。

前田:いや、彼の持つ誠実さや熱さが伝わるデザインです。僕の本だったらこれだとNGですが(笑)。マツダ本というより、「金井さん丸ごと本」みたいな。だから読んでいて楽しい。

編集Y:あはは。ありがとうございます。そういえば前田さんの本のほうは、新書としては斬新というか、なんというのか、普通は「ありえない」カバーデザインですよね。