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MDI以前にもプロジェクトは何度もあった

まだまだお話は尽きませんが、最後に、マツダのモデルベース開発、MDIがここまで来ることができた背景を改めてまとめていただけませんか。

木谷:考えてみると、「理想はこういうことだよね」というのは、マツダの社員、特にエンジニアはみんな分かっているわけですよ。実際、新見(連載第1回参照)がMDIにつながる企画を立ち上げる前にも、CAD/CAMで開発期間を短縮しようというプロジェクトが何度かあったんですけど、お話した通り、設計部隊に負担がかかるし、お金の制約があるし、総論賛成各論反対で、結局、会社として一枚岩にならずにとん挫した。

 MDIの計画を承認した、フォードから来たウォレスさん(マツダの社長を務めたヘンリー・ウォレス氏)は、技術者ではなく、財務のスペシャリストでしたけれど、コンセプトを説明したり、3Dをやっている現場を見せたりしたら、「なるほど、これは新見君が言っていた小回りが利く開発だな。投資するべきだ」と。

財務的な後押しと、社長と、剛腕役員の承認、協力。

木谷:ええ。最初は強力なトップダウンで始まったし、事実、なかなか動かなかった部分がトップの鶴の一声でがらっと変わるところも目撃しました。

やはり。

木谷:動き出すところはね。でも、理想に沿って実際に動かしていくというのは、まったく別の話。金井が言っていたように、プロセスをちゃんと定義して、設計がいざ使おうとしたときにおかしなトラブルが出ないようにしなきゃいけない。そのためのトレーニングも必要。ウォレスさんや新見が言ってもどうしようもない。やるのは設計の人たちですからね。

 そこは金井のような設計のエキスパートが入って、彼からお聞きになったように、苦労しながら仕事のやり方を新しく組み立てていって、初めて今があるわけ。

 仮に経営トップのビジョンがあって、それが正しく論理的なものだったとしても、実際にそれをやろうと思うと、現場のリーダーの理解が必要だし、彼がみんなを納得させないと、製品まで反映できない。やっぱり時間がかかりますよね。仕事の仕方を変えるわけですからね。

マツダのモデルベース開発は「世界一」か?

時間もありませんので、直球で聞いちゃいますけど、世界の中でマツダは、設計、製造、シミュレーションをデジタルで行う「モデルベース開発」というジャンルで見たら、世界一と言っていいんですか。

木谷:どうかなあ。マインドは世界一かもわからんな。

マインドは世界一(笑)。謙虚なのか自信なのか。

木谷:クルマ1台のモデルを作って、すべてを机上検証できて、そのまま製造できているというのが、理想のように思えるかもしれませんが、我々はさらにその先に、クルマが走る環境のモデル、搭乗する人体のモデル、そういうモデルをいっぱい作っています。

 一生懸命、全社一丸となって上から下まで、全員浸透したかどうかは別にして、そういう志を持って、それを実現できるマネジメント体制をつくって、目標と体制があって、必要な投資もしながらやっていく。

 そういう意味では、たぶん一番うちが小回りが利いて、一番機動力がある。個別の部門ではなくて、「全体最適が目標だよ」とみんな理解している。それが、マインド、「志」では世界一かもしれない。そういうことです。(談)