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木谷:いや、作るのもすごく大変なんですよ。テストピースは寸法の正確さも重要ですから、職人さんにフライス盤の使い方から習ってやるわけですが、最初はもうガタガタでとても実験に使えない。それでも、「実験で使うテストピースをどうやって作るかが分かっていないと絶対にだめだよ」って先生に厳しく言われて。

そのお話に乗っかると、シミュレーション技術が先に行けば行くほど、使う側、技術者の人って、いわゆる「金属」とか「プラスチック」という現物から距離ができたりしないですか。

シミュレーションは技術者を「とんちんかん」にしかねない

木谷:それはあるんですね。本当にシミュレーションしか知らなかったら、とんでもないことが起きるんですよ。パラメーターが完全に間違っていても、気が付かないんですよ。普通なら「おかしい、このパーツでこんな素材を使うわけがない」とかの基本的なことでも、データだけ見ていると見過ごす。自分が造るものの基本的なことが分かっていないと、恐ろしいことになる。

これは全然レベルの違う話なんですけど、プロの家庭教師をやっている友人がいまして、算数で距離や時間を計算させる、旅人算とかがあるじゃないですか。

木谷:ありますね。

「小学生に時間や距離を教えるときに、30キロなら30キロという距離感とか、1時間なら1時間の長さがどんなものか、という実感を認識させないまま、問題の解き方だけ教えちゃう教師が多い。これをやると生徒は、出た答えがとんちんかんでも健全な疑いを持つことができなくなる。例えば『A君が2キロ歩くのにかかった時間は』という問題で『6時間』という答えが出たら、『いくらなんでもかかりすぎだろう、問題を読み違えたかな』と思うべきなのに、計算ではこうだから、と気づかない。最初に“距離感”を認識させるか、あるいは、自分が身に付けていることに絡めて教えないと」。そんなことを言っていて、いたく感心したんです。

木谷:レベルが違うどころか、私が言いたいのはそれとまったく同じことですよ。分業が進んでくると、「シミュレーションをやれ」と言われたら「CADデータを集めて、入力をして自動で流して結果を見て、はい終わり」と思ってしまうエンジニアも出てくる。結果がどう考えてもおかしくても「でも、計算手順は間違っていません。こういう結果です」と澄ましている。これじゃダメです。何を何のために作っているんだ、という自覚がないと、自分の小さい仕事の枠に閉じこもることになる。

ということは、MDIを推進すると、マツダでもそういう弊害も出てくるんではないですか。

木谷:金井が言っている「共創」、部門を越えて仕事をすることが、その解消、防止策ですね。シミュレーションをしている部隊を一人にしないで、実際に試作車などで実験しているチーム、開発をやっているチームと一緒にして、こっちは実験、こっちはCAE、すぐに話ができるようにしておく。隣に現場があると、「こういう問題が起きているのか」という実感がある、そのうえで、シミュレーションを行えば、「仮説」も持てるし、結果に対して新たな疑問を感じることもありそうじゃないですか。

 すぐそばに設計がいて、生産技術の人がいたら、「どうしてダメなのか」とか「こういうことをやりたいんだけど」「えっ、ちょっとそこを詳しく」とか言いながら、教えてもらえるじゃないですか。ただ結果だけ「これでは作れないね」と、ぽんとメールで返されるよりも、同じチームの仲間としてやってくると、学び合いじゃないですけど、頭にずっと深く入ってくる。これは理屈じゃなくて、共同作業をする人間という生き物の特徴だと思います。

なるほど。