全8531文字

木谷:金井がいつも書いている、例の図。あれをまず描く。

あ。ここでアレが出る!(単行本164ページ コラム「公開! 二律背反の乗り越え方」参照)

(提供:マツダ)

木谷:財務の人の前でこの絵を描いて(と、資料にさらさらとボールペンで本当に描く)、「クルマの燃費と走りとか、操安性能と衝突とか、NVHとか、相反する要素を高い次元で両立して、世界一を目指すんですよね。この右上(と図を指して)に行くためには、ものすごい試行錯誤が必要ですよね。ここの最適解を求めるのは、コンピューターシミュレーションなくしては不可能ですよね」と。

なるほど。

木谷:「こんなもの、いちいち試作車を造ってやっていたら永久にできない」と(笑)。

「お金がいくらあってもたりないよ」と(笑)。

木谷:この高い目標を達成して、いいクルマを世に出したい、と思うのであれば、スーパーコンピューターの費用なんかゴ……いや、たいへんな金額だけど、とにかく、売れる商品を作るには必要な投資でしょう、と。要は、これからの自動車業界では、スーパーコンピューターをどれだけ持っているかどうかが、商品開発の差になって出てくるんです、と。

 ただ、一気に買わなくてもいい。というのは、コンピューターは毎年性能が上がって値段が下がるからね。でも、毎期、とにかくある一定額以上、スパコンを入れてくれ。そうやって着実に、毎年、毎年、増やしていこうと。

「木谷、わかった、もういい」

それで、財務の方には理解してもらえたんですか。

木谷:と言って、この絵を見せながら毎年毎年説得していたら、ある時「もうわかった、木谷、もういい」と言われて。

あはは(笑)。

木谷:そして、財務の人がアドバイスまでくれましたよ。「木谷君、もしスーパーコンピューターをレンタルでやったらどうなるの」「えっ、もしそんなことをやったら、そうですね、費用にして、ざっと10倍はかかるでしょうね」。クラウドがない時代ですし、むちゃくちゃかかるわけですよ、例えば10億円分の能力を買うとしたら、レンタルでやると100億円ぐらい。

 そう言ったら「なるほど、わかった。じゃあ、購入によって90億円のコストが節約できると書け」って(笑)。むちゃくちゃですよ、言い方としては。でも、これで通ったんです。

それは、財務の方も「やらせてやりたい、いや、ウチのためにやるべきだ」と思った、ということでしょうね。

志が同じでなければ、こんな投資はできない

木谷:10年の時は、ずっぽりPT(パワートレイン、エンジンのこと)開発の人間でしたから「ここで投資しないとスカイアクティブエンジンの量産が遅れます」と経営陣に言って、一気に増やさせてもらったんですよ。「リーマン・ショック、円高、無論、存じております。それでも入れてください」という。

無理やり入れさせてしまったと。

木谷:でも、10年にこの投資をスパコンにやっていなかったら、エンジンはたぶん第6世代のデビューに間に合っていないですよ。そこで認めてくれたんだから、ああ、財務の人も志は同じなんだな、と思いました。

モノ造り革新のひのき舞台は技術開発ですが、財務の方も「分かった」といったあとから、社債の消化や銀行との交渉に大汗をかかれたはずです。

木谷:そうです。彼らがそうやってお金を用意してくれなければ、我々がいかに歯噛みしても開発は進みません。