全8531文字

 マツダの現在の姿は、2012年発売の「CX-5」に始まる「第6世代」車両群が作り上げたもの。その第6世代を生み出した「モノ造り革新」は、デジタルワールド内での試行錯誤を可能にする「モデルベース開発」あればこそだ。

 マツダのモデルベース開発=「マツダデジタルイノベーション(MDI)」は、1996年から本格的にスタートし、2008年、第6世代の開発にちょうど間に合った。そして、第6世代の競争力の源泉である「SKYACTIV(スカイアクティブ)」技術、就中、走りと環境性能に優れたエンジンの開発に大きく寄与した(「 CAEに数百億円かけても、現場が使わなきゃ効果ゼロ~『ガラスのエンジン』が呼び込んだ成功」参照)。

 この絶妙のタイミングは、単なる“幸運”なのだろうか。

しかし聞けば聞くほど、MDIの進展が、「モノ造り革新」のスケジュールにぴったりはまって、ちょうど間に合って、よかったですね。

木谷:「ちょうど間に合った」のはその通りですが、そこにはやっぱり経営判断もあったんです。このグラフを見てください。

06、07年と伸びて、10年にどーんと上がっている。これは?

人も設備も「間に合うように」増やしました

木谷昭博執行役員・MDI&IT本部長

木谷:マツダが持っていたスーパーコンピューター(スパコン)の能力を、00年を「1」として計算すると、10年には「1010」になっていましたよ、というお話です。

桁違い、なんてもんじゃない急激な増強ですね。これ、金井さんのお話(※『マツダ 心を燃やす逆転の経営』191ページ、スカイアクティブ技術関連のため、先行開発の人員を急激に増やした)とも符合しますね。

木谷:そう、先行開発に携わる人も、そして計算能力も、モノ造り革新の進展に合わせて一気に増強した。

「ムーアの法則」で、スパコンはコストが下がって、性能が上がっているはず、ですが……。

木谷:ムーアの法則があるから「タダで能力が上がる」わけじゃ、もちろんないです(笑)。マツダの規模からしたら、すごい投資をして、「モノ造り革新」の進展に合わせて、モデルベース開発の能力を上げるために、スパコンを増強していったわけです。

そうやって、第6世代の開発をがんがん進めた。あれ、ちょっと待ってください、08年、09年と増強ペースが伸び悩むのは、やはりリーマン・ショックの影響でしょうか。

木谷:そう。さすがに少し抑えたけど、10年でなんとかその分を取り返している。

お釣りが出そうですけど……。

木谷:これは、モノ造り革新がいよいよ具体化して、12年から第6世代の車両を登場させるには、ここでガっと投資して、シミュレーションをはじめとする能力を引き上げないと間に合わない、と判断したからです。「スカイアクティブを世に出さなきゃいけない。もう最後の仕上げだ。スカイアクティブのために入れるんだ」と。

やっぱりそういうことですか。大逆風のさなかでも投資をし続けたから、12年からの発売に合った、というか間に合わせることができた。折しも為替がそこから円安に転じて、業績面では、ヒット商品の登場あいまって追い風をフルに受けることになった。

木谷:ちなみにこの後も、どんどんリソースを強化しています。

どうやって財務の人を口説いたか?

しかし、よくまあ、リーマン・ショックや東日本大震災もあったのに、これだけ長期間にわたってスパコンへの投資が通りましたよね。だって09年3月期から12年3月期は4期連続最終赤字ですよ。先行投資関連の費用なんて真っ先に削られそうなのに。

木谷:普通、考えられない話ですよね。私も頑張って財務の人を説得しに行ったわけですが……。

(ぐっと乗り出し)そこ、ものすごく興味があります。どういうふうにやったんですか。