じゃあこれは、文字通り実験で潰した車ということですね。試作車となると数千万円と聞きますが、これが6割くらい減ったというのは、大変な節約効果が。

木谷:スケジュール管理もきっちりやれるしね。しかもうちの第6世代は受験した車はすべて、衝突実験(JNCAP=独立行政法人自動車事故対策機構が実施する衝突安全性能アセスメント)で五つ星を取っている。その裏にはやっぱり地道な努力がいるわけですよ。

衝突実験に使う試作車は手間もコストも莫大だ。
衝突実験に使う試作車は手間もコストも莫大だ。

地道な努力。

木谷:クルマを造る素材、材質もどんどん変わるじゃないですか。構造も変わってきているし、衝突の形態も変わる。永久にそのまま使えるシミュレーションモデルって、仮に衝突に限ったとしてもありえないわけです。だから、CADもCAMもCAEも、常に性質や挙動を解明して、モデルにして、シミュレーションソフトに直していくという地道な努力がやっぱり必要なんです。

一度モデルを作ったら、そのままずっと使えるわけじゃないのか……。ちなみに、そのコリレーションの精度を上げるというところはどうでしょう、経験を積むとだんだんとうまくなったり?

木谷:します。うまくなりますよ。そこがまさに技術力ですね。その意味では、モノ造り革新の鍵を握る、エンジン開発を司るパワートレーン(PT)部門が、スタートした当時(06年)はCAEの使いこなしでは一番遅れていたんです。

「理屈だけでは現場は動かんですよ」「じゃ、行ってこい」

金井(誠太氏、当時専務)さんと、PT部門を統括していた羽山(信宏氏、当時常務)さんが決断して、PTに藤原大明神……もとい、藤原清志(現副社長、当時商品企画本部長)さんが送り込まれて、スカイアクティブエンジンの父、人見(光夫氏、当時PT部門先進開発グループ長)さんと出会うんですよね。そして、「SKYACTIV-G」と「D」が生まれる。

木谷:藤原がPTに行った半年後に、私も送り込まれたんです。金井と一緒にマツダのMDIや、新しい仕事の進め方のプロセス(マツダ・プロダクト・デベロップメント・システム=MPDS)の見直しや、技術開発プロセスを作ったのはいいけれど、「金井さん、技術集団の集まりにプロセスとかマネジメントとか言ったってダメです。難しいマニュアルだけ作っても現場はよう理解できんですよ」と言ったら「わかった、じゃ、お前が行ってやってくれ」と。

金井さんが車両先行設計部の初代部長になって、「仕事のやり方をゼロから考え直す」という仕事を始めて、それを実際に適用するところのお話ですね。

木谷:要は、職場の文化を変えないとせっかくMDIを導入しても成果につながらないから、仕組みを考えたやつが直接やってみせろ、ということですね。ほら、風土改革って、「風土改革プロジェクト」を起こしたって、どうしようもないじゃないですか(笑)。

確かに、どうしようもなさそうです(汗)。

木谷:「だから実際の現場で、仕事しながら入れてこいや」と。

たはは。そういえば人見さんは、「人もお金もないPTの先行開発の武器はCAE、シミュレーションしかないんだ」とずっとおっしゃっていたと聞きましたが。

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