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 今回は「ねずみ穴」という話でございます。これは師匠、立川談志の十八番でございまして、あらすじをかいつまんでお話ししますと、田舎から出てきた兄がすでに江戸で大成し、いっぱしのあきんどになっている。そこに田舎ですべての財を失い、尾羽打ち枯らした弟が「兄貴、よかったらここで勤めさせてくれ」と泣きつく。

 兄貴はこう諭します。「お前、そんなことを言うな、うちで商売するより商いのもと俺が金を貸すから、江戸で商売をやってみろ」。弟は「よかった、兄貴、それは渡りに船だ、俺は商売をやるよ」と言い、お金を渡されて表に出た。「よかった、よかった、よしこの金で飲もうか」と思って包みを開いてみたら、なんと入っていたのがたった3文。今の通貨価値でいうと、10円か20円ぐらいのものでございましょうね。

 ここで弟は、兄貴にこの金をたたきつけ、「ふざけるな、なめるんじゃねえ、誰だと思っているんだ」と言ってやろうと思うんですが、思い直します。

 「違うな、今の俺にはこの3文という銭がふさわしいかもしれない。ここから始めればいいんだ。よし、兄貴を見返してやろう」と、兄貴への怒りを前向きなエネルギーに変換させて、10年たって立派なあきんどになる。

 10年後、風の強い日、兄貴にお金を返しに行く。「もう俺はこんな兄貴とは絶縁する」と、たたきつけた。

 ところが、兄貴はまたこう諭すんですね。

 「お前、そこに座れ。あのときにお前に3文しかやらなかった訳が分かるか。あのときのお前にはいくら貸してやってもだめだった。いいから、聞け。お前はすさんでいたな。いくらか金が入ったら、またこの金で酒を飲もう、吉原に行こうとしていたに違いない。そうにらんだから、あえて3文渡したんだ。

 それが悔しくて、1文でも増やしてまた来たら、そのときあらためて相談に乗って、大金を貸すつもりだった。でも、お前は来なかった。偉いな、お前は。辛抱したな。お前が頑張っている姿をずっと後ろから見ていたよ」

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