「治兵衛さん、ゆんべ、眠れましたか」
治兵衛さんは番頭の名前ですね。この一言が見事なターニングポイントになるわけです。
でも、効率を考えてばかりいると、どうしても先に言いたいことを言ってしまいがちです。そうではなく、ターニングポイントのせりふ、あるいは場面を考えてみたらどうでしょうかということなんです。結論ももちろん後に言いますが、逆算して、その前に違うことを言う。
この落語で素晴らしいのが、「ゆんべ、眠れましたか」と、まず番頭さんをねぎらうことです。(自分の遊びが旦那にばれたことで)番頭は眠れなかったのではないかと想定して、旦那はターニングポイントのせりふを言うわけです。
このせりふがあるおかげで、「旦那に怒られる、もう来年はだめだ」と思っていた番頭の心の澱(おり)が消え去り号泣する。ここに「百年目」の一番のポイントがあるわけです。
すなわち、ここから学べるのが、大事なことを言うんだったら、まず逆算して話にターニングポイントを設けましょうということなんですね。
「蒟蒻(こんにゃく)問答」の回でも話の「間」の部分でお話しいたしましたけれども、ターニングポイントを設けることで、会話の主導権が握れるんです。この主導権さえ握っていれば、会話だけでなく、何においてもすべて優位に事を運ぶことができる。その見本が「百年目」という落語なんですね。
人情噺というジャンルの落語は、しんみりと聞かせる中に、落語の語りの奥深さが描かれています。
圓生師匠の「百年目」は絶品ですね。ビートたけしさんが「一番泣いたのが圓生師匠の『百年目』だ」と、かつて言っていたことがありますけれども、本当に話芸を磨き抜いた形、フォルムが描かれています。
この落語からターニングポイントのせりふを聞いてみてください。そして、部下に何か訴えたいことがあったら、それをずばり言うのではなく、逆算して、まず相手をおもんぱかった、相手の立場を想定した優しいせりふを言ってあげる。
このことによって、より深い人間関係が構築できます。その見本が「百年目」。ぜひ聞いてみてください。お薦めします。
- 01 「蒟蒻(こんにゃく)問答」 上手に「間」を取って会話の主導権を握る
- 02 「道具屋」 与太郎に学ぶ「常識転覆力」と「愛され力」
- 03 「百年目」 部下を叱る時の「ターニングポイント」
- 04 「一眼国(いちがんこく)」 相手の半歩先を行くメタ認知力
- 05 「紺屋高尾(こうやたかお)」 覚悟があれば大物は釣れる
- 06 「後生鰻(ごしょううなぎ)」 自分の価値観を押し付けていませんか?
- 07 「ねずみ穴」 小言はプレゼント
- 08 「不動坊(ふどうぼう)」 比較から始まる不幸
- 09 「死神」 楽してもうけるな
- 10 「長短」 教え過ぎないほうが部下や子供は伸びる
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