
10時10分で止まった時計を想像してください。
午前10時10分と午後10時10分、1日に2度合う。だから、この時計にも存在意義がある、意味のないものはないということを言っているのです。
向こう側から見ればどうみえるか分からない
この与太郎から学べるのが、「常識転覆力」です。「あっ、そんな見方もあったのか」ということを、この落語を通じて感じていただければと思います。
落語は、絶対的なものは認めません。すべて世の中は相対的なものだと言っています。相対的なものということは、「お前も俺なら、俺もお前だ」ということ。
自分で「これは正しい」と思っていても、向こう側から見ればどう見えるか分からない。このことを与太郎は言っているんです。
これは完全に私の買いかぶりかもしれません。与太郎自身に「本当か?」と聞いてみると、「そんなことは考えてない」と言うに決まっていますけれども、与太郎は壊れた時計でも1日に2度合うと、常識を転覆させてしまう。聞いている人は「あっ、そうか、そういう見方もあるのか」という感じに包まれるわけでございますね。
さらなる買いかぶりでございますけれども、落語が好きなあまりの買いかぶりだとして、お許しいただければと思いますが、壊れた時計にすら愛情を注ぎ込むという、与太郎の優しさがあるんじゃないかと思うんですね。
というのも、与太郎というのはいろいろな落語に登場するんですけれども、愛されているんです。本当に愛されているんです。
ばかなやつというのは憎めないじゃないですか。自分がそういうポジションになろうというのではなく、与太郎みたいな言動をする人がいたとしても、それを受け入れてみたらどうかということを落語は言っているわけです。常識転覆力から優しさにつながる与太郎の魅力を、「道具屋」をはじめとした与太郎噺で存分に味わっていただければと思います。
世の中、大事なのはIQより愛嬌です。そして何より素晴らしいのが、この与太郎みたいな人間が受け入れられている落語の豊かさ、コミュニティーの緩さ、優しさ。こんな優しい人間がいる。それを受け入れるさらに優しい人間たちが織りなす物語だからこそ、落語というのは皆さんを救うわけです。
ぜひ、与太郎噺で優しさに浸ってください。
- 01 「蒟蒻(こんにゃく)問答」 上手に「間」を取って会話の主導権を握る
- 02 「道具屋」 相手の価値観に触れ発想力を鍛える
- 03 「百年目」 相手に伝わる話し方
- 04 「一眼国(いちがんこく)」 相手の半歩先を行くメタ認知力
- 05 「紺屋高尾(こうやたかお)」 覚悟があれば大物は釣れる
- 06 「後生鰻(ごしょううなぎ)」 自分の価値観を押し付けていませんか?
- 07 「ねずみ穴」 小言はプレゼント
- 08 「不動坊(ふどうぼう)」 比較から始まる不幸
- 09 「死神」 楽してもうけるな
- 10 「長短」 教え過ぎないほうが部下や子供は伸びる
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