人生を豊かにする体験につながる設計を

川島:技術の進化をどういう方向へ使っていくのかは、きちんと考えないといけません。技術そのものが悪なのではなくて、要は使い方次第です。人の身体性を考慮の「外」に置いてしまうことがあるので、そこには注意が必要です。

宮田:例えばいまは、ますます地方経済が衰退し、路線バスの定期運行なども維持できなくなっています。これからはそれをオンデマンドでカバーしようというサービスがどんどんと出るはず。その時、いくら技術的に可能だからといって、いつでも家から目的地、目的地から家まで、ドア・トゥ・ドアで移動できるように設計してしまうと、サービス利用者はまったく歩かなくなってしまいます。技術の進歩によって、人はさらにこの先歩く機会が減って、もしかすると健康を害する恐れも生じてくる。

 天気のいい日や桜の季節、この辺りの景色がすばらしいから歩いてみましょう、と促してみる。そんなプログラムまで考えておきたいところですよね。「今日、あなたは2000歩しか歩いていないから、ここを通って残り何百歩は楽しく歩きましょう」といった提案ができるようになってほしい。

 単なる効率ばかりではなく、人生を豊かにする体験につながるデザインが必要になってくるんじゃないでしょうか。

 ナイアンティックのプロダクトやサービスは、そうした思想の下にあるのだと思います。それこそ、2019年に新しくローンチされた「ハリー・ポッター:魔法同盟」もそうですね。

川島:「ポケモンGO」では、ポケモンが現実世界に現れることを願っていたユーザーの夢をかなえることができました。もともとの作品の世界観を実現させる、という面があったわけです。

 「ハリー・ポッター」も同じです。魔法の世界が現実界に立ち現れるという原作のストーリーは、ファンタジーを現実の中に埋め込もうという、ナイアンティックのやりたいことと、非常に相性がいいんです。

 「ハリー・ポッター」シリーズは世界中に情熱的なファンがたくさんいて、そうした人たちに受け入れてもらえるか心配でしたが、幸い満足していただいているようです。ひときわファンの多い日本でも、街中のいたるところで魔法使いが現れるようになってくれるとうれしいですね。

宮田:それは楽しそうですね。

川島:ナイアンティックは、AR(拡張現実)などのさまざまなテクノロジーを使って、人々が世界そのものを、より身近に感じられる「体験」を生み出したいと思っているんです。

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