複数のつながりを同時に維持できる世界へ

川島:例えば「フレンド機能」。これはゲーム内で友だちをつくり、その友だちに自分の訪れた場所が書かれた絵はがきのようなギフトを贈れるもの。これがすごく楽しいんです。「コンビニの前ばかりじゃダメだな」と思って、いつもと違うところに出かける動機になったりもします。

 「こんな場所からのギフトを贈ったら喜ばれるんじゃないかな」と考えたり、家族でプレーしている人は、おじいちゃんおばあちゃんとフレンド機能でやりとりして、ギフトが来ないと「何かあったんじゃないか」と互いの状況を確認するきっかけの役割も担っていたり。

 現代は、やはり人と人のつながりが希薄になっている時代です。特に都市部だと、隣の家の人ですらあいさつをしないこともある。

 フェース・トゥ・フェースのコミュニケーションが、幸せやウェルビーイングにつながるのは確かなことでしょうし、学術的な検証も出ています。であれば、それを生み出すための実践が「ポケモンGO」なのだと考えています。

 いま、人気のあるほかのエンターテインメントを見てみると、やっぱり自分の半径数メートルに集中しているものが多いですよね。

 昔はお茶の間に集まって、家族みんなでテレビを見るのがエンターテインメントでしたが、もはやリビング全体の広がりはなく、家族それぞれのエンターテインメントはスマホの画面で完結していたりします。

 その点、「イングレス」や「ポケモンGO」で遊ぶと、必然的に外の世界へ向かうことになります。自分の世界として認識できる場所が、明らかに拡大するのです。

 いまは鉄道網や道路網が発達し、飛行機もたくさん飛んでいて、さまざまな移動体がかつてないほど進歩し、低コストで、いろいろなところに行けるようになりました。こんな時代は人類の歴史の中でもほかにありません。

 それなのに、なぜ人は半径1メートルの中で時間を過ごそうとしているのでしょうか。すごくもったいないですよね。

宮田:外へ向かうほど、ウェルビーイングや「つながり」が得られる、ということですね。社会的なつながりは健康にポジティブな影響がある、ということは多くの学術研究が示してきています。位置情報ゲームやフレンド機能は、人々と世界の新たなつながりに結びつくかもしれませんね。

 私はこれからの時代、「マルチ・レイヤード・デモクラシー」という考えが重要になると思っています。これまで人は、単一の国や都市、地域に帰属しながら生きてきました。

 けれど、インターネットや移動手段の多様化によって、複数のつながりを同時に維持できるようになってきた。物理的な距離の「遠さ」は、かなり乗り越えられるようになったのです。空間的な価値を共有しながら、世界とのつながり方をデザインするという姿勢が、一人ひとりに求められるようになっています。

 その人の大事にする価値の中で多層的に世界とつながって、新しい価値をつくっていくことが必要になる。そうした社会のデザインに、ナイアンティックはひと役買って、先導しようとしているところに敬意を表します。

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