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東京大学医学部附属病院の瀬戸泰之病院長(右)と宮田裕章教授(撮影/竹井 俊晴、ほかも同じ)

 日本の医療現場で、外科を中心に稼働しているシステム「NCD (National Clinical Database)」。全国5000以上の医療施設から手術症例が刻々と収集され、信用性の高い巨大データベースが構築され、医療現場において、劇的な変化をもたらしている。

 実際に医師たちは、NCDの導入によって臨床現場がどのように変わったと感じているのだろうか。そしてNCDは今後、病院運営や経営、日本各地の医療のあり方にどのような影響を与える可能性があるのか。

 今回からは3回にわたって、NCDを現場の臨床医の視点からリードし、支えてきた東京大学医学部附属病院の瀬戸泰之病院長が登場。宮田裕章教授とNCDの導入によって変わる医療について語り合う。

宮田教授(以下、宮田):データを活用して現実を良くすることが、私の専門領域なのです。そして医療の世界で仕事をしていく上で、現場で尊敬する医師方にお会いして学んだことが、私の基礎になっているとも思っています。

 真に患者さんの視点に立って、より良い医療を実践しようと取り組む方々と一緒に仕事をさせていただくなかで、「日本が誇るプロフェッショナルを応援し、支えることが、患者さんにとっても日本の社会にとっても、これからの世界にとっても重要になる」、と考えています。

 私が医療の世界に足を踏み入れた頃から、そして今も、現役で日本の医療をけん引しているのが瀬戸先生です。今回は、現場の感覚から、NCDが日本の医療現場でどのようにして生まれ、活用されているのかについて、改めて教えてください。

瀬戸病院長(以下、瀬戸):宮田先生とは、NCD発展のために、またより良い制度構築のために、ともに頑張っている間柄です。

 NCDが立ち上がったのは2011年のこと。それ以前は、今から振り返ると大変なことがたくさんありました。

 日本の医療の特徴は、よく知られる通り、国民皆保険制が敷かれていることです。昭和の時代に築かれた、世界に誇るべき医療体制であることに異存はありません。

 このお陰で、誰でもどこでも、同一料金で、質の高い医療サービスを受けられる。日本が最も長寿な国の1つになることを力強く支えてきました。

 ただし一方で、医療データを積み重ねるという点では、保険診療はあまりうまくは機能してきませんでした。

 というのも、日本の保険制度は実はかなり複雑なのです。大きく「社会保険」と「国民健康保険」に分かれており、社会保険の中でも細かく区分があって、データをそれぞれの監督機関が保有していた。

 皆保険ではあれど、データの在りかはバラバラで、統一したデータベースが存在しなかったのです。

宮田:厚生労働省が政策や予算を考えるための大枠の数字はあるけれど、少なくとも、医療従事者が活用できるようなビッグデータはありませんでした。

瀬戸:はい、それで医療の側からこれを整備しようという動きが出てきたんです。NCDに先行して、まずは心臓血管外科がJCVSDというデータベースを構築しはじめました。そこに宮田先生は参画されていた。