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田中:浮世絵から始めて、次にそれに影響を受けた人たちの作品を見るのですね。

山本:そのときに、1つのアドバイスは線を見ること。西洋絵画には輪郭線はないんですよ。陰影で表現しますから。ところが日本の浮世絵は版画ですから、線ばかりです。だからその線をゴッホがどういうふうに描いたかを見ます。

 その後にピカソを見てください。ピカソは青の時代とキュービスムで絵が変わります。この青の時代のピカソはほとんど輪郭線です。その輪郭線を描くことからキュービスムが展開することを、ピカソで見てもらいたいですね。そうしたら、ピカソから日本人はどれだけ影響を受けているかを、東京国立近代美術館で見てください。

 2つ目のアドバイスは戦後の日本の洋画に注目して、どのくらい厚塗りしているかを見てください。

絵の具の盛り上がりに注目してみる

田中:戦後の日本の洋画ですか。

山本:例えば香月泰男(かづき・やすお)は油絵の具の中に墨を入れました。盛り上げるために。ジャン・デュビュッフェは砂を入れている。これが戦後の絵画の大切な特徴なんです。絵をイメージとしてじゃなくて、物質性を体験しようというのが第2次世界大戦後、世界で広がる。ジャクソン・ポロックの絵って盛り上がっているでしょう。

 その盛り上がりを見ていただいて、東京都現代美術館で「具体美術協会」(1954年、吉原治良が結成。絵画の技術や技法にとらわれず、自由な表現を目指した。『アートは資本主義の行方を予言する』より)の絵を見てください。白髪一雄(しらが・かずお)など、全部盛り上がっていますから。戦後に絵画が物質化するのとイメージ化するのに分かれるようになります。

イメージ化するというのは、どういうことですか?

山本:アンディ・ウォーホルの「マリリン・モンロー」を見ると写真や映像から影響を受けているのが理解できる。20世紀は写真と映像によってイメージが拡散していることが絵画から読み取れるのです。アンディ・ウォーホルだったら軽井沢のセゾン現代美術館にあります。そこからスーパーフラットという村上隆のアニメーション思想につながります。

 今度は、東京から離れますけど、イタリアの現代美術などが常設されている愛知県の豊田市美術館 に行ってみてください。そこに1970年代前後、世界で一斉に花開いた美術があります。アメリカのコンセプショナルアートとイタリアのアルテ・ポーヴェラ(「貧しい芸術」という意味)。そして日本の「もの派」(石や木、鉄材や紙、ロープなどの素材をそのまま組み合わせ「もの」と「もの」の関係を再構築する新しい芸術表現。『アートは資本主義の行方を予言する』より)のグループです。ここからアートのグローバル化が始まった。

豊田市美術館外観(写真提供:豊田市美術館)
斎藤義重個展(第9回)展覧会風景(東京画廊+BTAP、1980年)

 そこまで行ったらスイスで毎年6月に開催される近現代美術のアートフェア「アート・バーゼル」を見に行く。ここまでの流れが全部見えるようになると、「アート・バーゼル」が面白くなるんです。値段を歴史を追ってみると、資本主義の成長を全部反映していることに気が付きます。