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田中:どんな壁にどんな照明で、どう陳列しているかにも、飾っている人の美意識が出ますよね。自分が今まで全然考えてこなかったものに少しずつ触れられる感覚は、すごく楽しいですね。

絵から伝わる物質感が美意識に関係する

山本:やっぱり先生は好奇心が旺盛だと思うんです。その好奇心というのは、新しい、珍しい体験を自分の中にどんどん取り入れて、その体験を自分の中に積み重ねていくこと。ただ絵の知識を持っているのとは違って、絵を実際に見ると、その絵の物質感が自分に伝達する。それがにじみ出てくるのが、その人の美意識になると思うんです。

田中:そうありたいですね。いまのところ、にじみ出ている気配はありませんが(笑)。

山本:例えば1つの絵を写真で見るのと、その現場へ行って見るのとでは全然違う。自分で触れるくらいのところまで近づいた人には、向こうから何かが伝わってくる。その物質感みたいなものがその人の価値をつくる。体に伝わってくるものが、僕は美意識にものすごく関係があると思います。

田中:食べるものに美意識が出るというのも、そういうことなんですね。

山本:そう。日本で一番間違っているのは、知識をたくさん持っている人が教養人だということ。たぶん教養というのは、その知識を自分なりにどう解釈して他人に伝えるかという、その伝達の部分に僕はあると思う。

 知識って量でしょう。以前、旧大蔵省の人ですから当然賢くて、ある銀行のトップにまでなった人がいました。美術の知識は詳しいんですけど、絵が分からないんです。

美術に詳しいのに絵が分からない?

山本:分からない。東山魁夷は何年に生まれて、こうだ、ああだとかって、とうとうとしゃべるんだけど、実際にその人と絵を見に行くと、絵がまったく分かってないの。だからその人にとっては、ああ、美術は知識であって教養ではないんだなと思いました。

浮世絵からスタートする美術館の歩き方

この夏休み、読者にも実際に美術館に足を運んでもらい、自身の体で絵から伝わってくるものを感じてほしいと思いますが、おすすめの見方を指南していただけないでしょうか。

山本:まず浮世絵を見てください。いろいろなところに浮世絵はありますが、例えば太田記念美術館もいいでしょう。浮世絵を見た上で国立西洋美術館へ行って印象派を見てください。

歌川国芳「於岩ぼうこん」(写真提供:太田記念美術館 2019年8月28日まで同美術館で開催されている「異世界への誘い――妖怪・霊界・異国」展より)