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山本:それから僕たちの現代美術だと、若い作家と僕が接触すると、経験知は明らかに僕の方があるわけですよね。70歳になっているものですから、どのくらい絵を見たか分からない。でも30代の人はそんなに世界が広くない。

 そうすると、若い作家の仕事でも、これは面白いとか、これはやめた方がいいとかいうのはある程度分かります。実際にアーティストにアドバイスすることもあります。ただ僕たちがやっちゃいけないのは、こういうのが売れているから、こういうふうに描けと言うこと。

田中:あ、それはだめなんですか。

山本:はい。一瞬売れるかもしれないけど、本人が自覚して描いたものじゃないから、短期間で終わってしまうんです。本人が持っている資質をどう伸ばすかが大事で、売れるからこれをやれと言っていたら一発芸みたいになります。

田中:ビジネス界では当たり前にそう言いますよね(笑)。今これが売れているからお前もこれをやれ、このやり方でやった方が売れる、などとアドバイスする。

田中靖浩氏(写真:陶山 勉)

そのビジネス界では今「美意識」が注目されています。複雑で不確実さを増す時代には、従来の経営手法だけでなく、直観や感性といった「美意識」が経営にも求められるといったことのようです。

美意識は食事に例えると分かる

山本:まず美意識って皆さん簡単に言うんだけど、一番例えやすいのは食事なんです。子供の時代から何を食べてきたかということと、今何を食べるかってすごく関係している。

 僕たちの美術では、お客様に何を食べてもらうかで私の美意識が伝わっちゃう。例えばうちの画廊は前衛をやっています。その画廊の僕がお客さんに「吉兆」へ行きましょうと言うと失敗するんです。「山本君、吉兆は君に教わらなくても自分はもう知っている」と言われてしまう。僕は僕にしか連れていけないようなところに連れていかないとだめなんです。そうすると一気に僕の評価が上がる。もちろん、珍しければいいのではなく、やっぱりうまくなきゃいけない。

 そういったことを結構神経を使って毎日やって、そこで、僕の美意識が相手に測られている。美意識というのはトータリティーだから、「絵が分かる」とか、何か1つのことだけじゃないんです。

田中:美意識なんていう大したものじゃないんですけど、お金がらみの仕事が多いので、汚れてきているのがよく分かる(笑)。ですからそれ以外のところに意識を向けよう、向けよう、いつもと違うところへ行こうと思っています。音楽も大好きですし、ビジネスから離れて小説を読むのも大好きです。

 今回、絵の面白さを知ってからは美術館へ行くのが本当に楽しい。世界のあちこちの美術館に行くと、絵だけでなくいろいろな観点で見るところがあるのも分かりました。

山本:まさにそうです。