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 連載「絵画と人間ドラマで学ぶ 会計の世界史」で、ルネサンス期のイタリアで始まった簿記から現代のファイナンスまでお話していただいた田中靖浩さん。会計士の視点で絵画と歴史を読み解き、「減価償却」や「のれん」などの会計知識を発祥の経緯を交えて分かりやすく解説していただきました。

 今回は、現代アートを専門に取り上げる東京・銀座の画廊「東京画廊」社長の山本豊津さんと対談し、意外にも深いアートと「お金」の関係についてそれぞれの立場から語ってもらいます。

 絵の前に実際に立って、そこから伝わってくる「物質感」が見る人の美意識に大きく関係していると話す山本さん。美術の知識がたくさんあっても絵が分かるわけではないとも言います。「後編」では、山本社長にお勧めの美術館の歩き方を教えてもらいました。「絵はよく分からない…」という人も、まずは実際に美術館に足を運んでみるところから始めてみてはいかがでしょう。

アートバーゼル (香港)展示風景(2019年、東京画廊+BTAP)

前回の「絵をじっくり見れば決算書が読めるようになる」で、画家という個人を見た方が、歴史や経済が分かるという話がありましたが、歴史上の有名な画家は商売人の才能もあったのでしょうか。

山本豊津氏(以下、山本):レオナルド・ダ・ヴィンチは自分で絵を売っているからね。あの時代には僕たちみたいな画商という仕事がなかったから、絵描きさんは自立するために自分で絵を売ったり買ったりしていた。画家が職人から自立して、自分で絵の売り買いをできるようになったのは、ファン・エイク(14~15世紀に活躍したフランドルの画家)という人がオイル・オン・キャンバス(キャンバス地に描く油絵)を考えたからだといわれています。

 壁画って売れないでしょう。オイル・オン・キャンバスというのは資本主義に最も適したスタイルです。

山本豊津(やまもと・ほづ)氏
東京画廊社長。1948年東京都生まれ。71年武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業。元大蔵大臣村山達雄秘書。2014年、15年アート・バーゼル(香港)、15年アート・バーゼル(スイス)に出展。日本の現代美術を世界に紹介する。著書に『アートは資本主義の行方を予言する』(PHP新書)、『コレクションと資本主義』(角川新書)(写真:陶山 勉)

画家にもマーケティングセンスが必要に

田中靖浩氏(以下、田中):イタリアのルネサンス期は教会から壁画を頼まれたり、ダ・ヴィンチがミラノの王様に「どうか使ってください」という手紙を出したりしています。経済の中心がオランダになると、画家に直接注文することがなくなってきて、絵の売買が商売になってくる。そうすると、画家にもマーケティングセンスが必要になりますね。どんな絵がウケるかとか、お客さんを接待しようとか。フランスでもだんだん有名人の肖像画を描くようになってきます。

山本:そう。発注者が王様や貴族から豪商に移る。それが起きたのがオランダだと思うんです。それまでのマーケットは小さかった。ところがそこに豪商が加わって、王様が肖像画を画家に描かせるように、俺のことも描けと注文することによって、マーケットが広がっていった。

田中:そうなるといかにクライアントの意向に沿った絵が描けるかとか、どれくらいの納期で描けるかとか、どの程度、修正を施せるかとかが大事になってきますね。

 画家も自分で商売できない人は、商売をするに当たってパートナーを選ぶと思うんですよ。芸能人でもどこかの事務所に入るのか、それとも自分自身でマネジメントするか考える。いい人と組んだ人は自由自在に没頭して絵が描けるし、そうじゃない人は、悩み続ける人もいますよね。レンブラントって人生の後半ずっと悩んでますし。