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 連載「絵画と人間ドラマで学ぶ 会計の世界史」で、ルネサンス期のイタリアで始まった簿記から現代のファイナンスまでお話しいただいた田中靖浩さん。会計士の視点で絵画と歴史を読み解き、「減価償却」や「のれん」などの会計知識を発祥の経緯を交えて分かりやすく解説していただきました。

 今回は、現代アートを専門に取り上げる東京・銀座の画廊「東京画廊」社長の山本豊津さんと対談し、意外にも深いアートと「お金」の関係についてそれぞれの立場から語ってもらいます。

 企業の決算書を読み込むコツを身に付けるためには、絵をじっくり見ることが役に立つと話す田中さん。「『お金』と美術の関係を正常化しなければならない」と、様々な活動をする山本さん。8月14日掲載の「後編」では、山本さんにお薦めの美術館の歩き方についてもお話ししてもらいました。

朴栖甫「Empty the Mind: The Art of Park Seo-Bo」展覧会風景(東京画廊+BTAP 2016年)

会計士と銀座の画廊オーナーというと、接点がすぐには思い浮かばないのですが、田中さんと山本さんはどんなふうにして出会ったのでしょうか?

山本豊津氏(以下、山本):今、日本は観光立国などと言っていますが、経済とアートがまったく離れた領域でやっている。だから鎌倉みたいにあちこちで街の風俗化が始まってしまう。早く「お金」と美術の関係を正常化しなければならない、そう思って文化庁とも一緒にいろいろなことをやってきました。

 「お金」つまり経済との接点を探し求めていたところ、田中先生の『会計の世界史』(日本経済新聞出版社)を読んだ僕の後輩が、「豊津さんが考えていることを、会計の分野でやっている人がいる」と教えてくれた。本を読んだらすごく面白くて、僕からやみくもに田中先生に連絡を取りました。

山本豊津(やまもと・ほづ)氏
東京画廊社長。1948年東京都生まれ。71年武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業。元大蔵大臣村山達雄秘書。2014年、15年アート・バーゼル(香港)、15年アート・バーゼル(スイス)に出展。日本の現代美術を世界に紹介する。著書に『アートは資本主義の行方を予言する』(PHP新書)、『コレクションと資本主義』(角川新書)(写真:陶山 勉)

田中さんには連載でも、ご自身で海外の美術館でご覧になった絵をはじめ、イタリアやオランダ、英国などの画家の絵画を引き合いに出しながら、会計知識や背景の歴史について解説いただきました(「数字を使わずに学ぶと、会計はもっと面白くなる」ほか)。ただ、もともと絵はお好きじゃなかったそうですね。

田中靖浩氏(以下、田中):好きじゃなかったというか、本当に縁がなかったんです。ところが、今は興味津々です。

100万円未満の絵画は減価償却の対象に

山本:『会計の世界史』で面白かったのは、鉄道の減価償却の話(「イギリスで発祥した『鉄道マニア』と減価償却」)ですね。今、日本で減価償却の対象になるのは、原則、取得金額が1点100万円未満の美術品です。基本的に芸術品も消費財で、お野菜と一緒なんですよ。

田中:消費財みたいな扱いなんですね。

山本:そう。海外流出を阻むために、国宝と重要文化財だけは資産として認めたんだと思います。ただ、これも一部を除いては資産価値が下がっているんです。このことは何とかみなさんに理解していただきたい。