山本:イタリアからオランダへ資本主義が出て行ったら、フェルメールやレンブラントといった天才たちが出てきた。経済の発展と天才ってパラレルになっています。

絵を見ているのではなく情報を確認しているだけ?

田中:絵画を知って思ったのが、絵を読むことと決算書を読むことって、すごく似ているということ。表面だけ見て、自己資本利益率(ROE)とか総資産利益率(ROA)といった比率を計算すれば、いい会社か悪い会社かはすぐにコメントできます。大事なのは、その数字の背景を読めるかどうか。決算書の背景に、その業界の動きや経済の動きがあるわけで、そこまで深く読めるかどうかなんです。読み方のレベルによって、決算書の面白さが全然違います。

 絵も単純にこの絵はいつの時代に、どんな画家が描いたかだけ見ていればそれまでですが、この画家っていったいどういう人なんだろう、どんな背景があってこういう絵を描いたんだろうと考えながら見ていくと、いろいろなことが分かってくる。

山本:芸術鑑賞で一番時間がかからないのは、絵なんですよ。絵の前を通り過ぎるだけなら3秒で終わっちゃうでしょう。ところが音楽のコンサートだと2時間は聴いていなければならない。会場に入れる人数にも限りがある。

 たぶん、1枚の絵画の前に、3分もいないと思うんですよ。フェルメールの絵を見に行ったとしてもです。僕の友達が言っていたんですけど、「これは雑誌に出ている」という確認だけなんですよ。絵を見ているのではなく、もうすでに見た情報を確認したという安堵感だけ。一方で、同じ絵の前に2時間も3時間もいられる人もいます。

田中:会計士や銀行員はじめビジネスパーソンは、絵を見るべきだと思いますよ。絵の見方を知らないから、決算書の読み方も誰もが同じになってしまう。

 絵の前で、描かれた時代や画家の人となりについて想像してみる。そして、どんな画商を通じて世に出てきたのかを見ていく。その手順って、決算書を見るときとまったく同じです。

絵を見るといっても、これまで絵をじっくり見たことなどなかった人には難しいかもしれません。見るときのコツみたいなものはあるのでしょうか。

山本:まずはぜひ、歴史に対する興味を持ってもらいたいということ。

 例えば僕たちが銀座を他者に伝えるときは、銀座には前近代と近代と現代の文化が共存していると話します。そういう街は世界中でも珍しい。食でいうと、お寿司は江戸時代の文化。それが今、銀座に残っていて世界的な食べ物になりつつある。近代では、洋食とか洋服とか、我々がヨーロッパから学んだものを我々の文化で翻訳し直したものがある。現代は資生堂、ミキモト、そして「マキシム・ド・パリ」(現在は閉店)。ソニーという企業が有名な料理人を呼んだ。そこが現代の始まりだと思うんですよね。この前近代、近代、現代の3つで組み立てていく。美術でもこうした見方をしてくださいと言っています。

田中:そういう軸があるといいですね。

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