田中:絵画を会計の仕事の中で一番意識したのは、15年ほど前に減損会計がこの国に入ってきたときです。それまで時価評価されなかった事業用資産を時価で評価して、価値が下がったときには損失を出しなさいという新ルールです。事業用資産は償却だけしていればよかったので、価値を測定することはなかったんです。

 ところが、減損会計が入ってきたとき、事業用資産の減損を初めて行ったところ、それだけで赤字になるような会社がありました。その中で強く印象に残っているニュースがあります。

田中靖浩氏(写真:陶山 勉)
田中靖浩氏(写真:陶山 勉)

所有する美術品を減損して赤字になった会社があった

 ヤマタネという、山種美術館を運営している倉庫業などの会社ですが、持っている美術品を減損して赤字になったんです。絵画を価値評価して減損を計上したところ、赤字決算になった。東山魁夷や横山大観といった日本画をいっぱい持っている美術館です。

 まず、絵画が減損対象になることに驚きました。もう1つ、どうやって価値評価したのかです。減損するためには価値評価ができなければいけませんが、どんな資産でも価値評価って難しい。そこにも興味を持ちました。1つの会社の利益を吹っ飛ばすぐらいのインパクトがあるというのにびっくりして、初めて絵画の価値を意識しました。

 本を書くに当たっては、会計制度を説明するときにストーリーを入れていこうと考えていたのですが、そこで画家にフォーカスしてみたら「これは面白いぞ」となった。画家を見ていくとその時代の経済が分かる。事業家よりも画家を見た方がよく分かるんですよ。

山本:画家は個人です。1人の人間が生産して、その人がつくった作品がどう社会の中で価値化していくかを追いかけると、その時代の経済も見えてくると思います。

田中:そうかもしれませんね。やっぱり芸術って経済の上澄みみたいなところで、生活必需品ではありません。余裕の部分だとすると、その時代の経済の良しあしははっきりと表れますよね。タクシーの運転手が一番景気を分かっているのと同じです。絵に対する投資でいえば、誰がどのように投資するかに、その時代の経済環境が表れます。

山本さんが著書の中で「資本主義の特質を、もっとも精鋭的な形で表しているのが、アート」というのは、そういうことなんですね。

山本:メディチ家の銀行がつぶれた後、地中海の資本主義が飽和状態となって、金利がゼロになるんですよ。金利がゼロになった16世紀って、天才が現れないんですよ。

田中:イタリアで資本の投資先がなくなったときですね。

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