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田中:超過収益力というのは、こういう意味なんです。実際に実物資産として評価された金額を上回る収益力がある。言い換えれば、将来稼ぐ力を持っているから、高い金額でも買収する価値があるということです。

 なお、のれんについては、減価償却するかしないかを巡って、国際会計基準の分野ではもめています。

白井:そういうことだったんですね。

企業価値とは何を指すのか?

田中:将来キャッシュフローを見積もった金額のことを、最近漠然とですが「企業価値」と表現しています。

白井:よく聞きます。

田中:企業価値とは何かと聞いても、多くの人は答えられないでしょう。何となく、漠然と企業価値と言っているだけで。

 企業価値とは、ファイナンスの面から言うと、将来キャッシュフローの割引現在価値です。将来キャッシュフローを割引計算によって、現在の金額で表現し直したものです。そう考えると非常に分かりやすいと思います。

白井:はい。

田中:では、企業価値を高めるとはどういうことでしょうか。ファイナンス的に言うと、その会社が稼ぐ、将来のお金を増やすことにほかなりません。ここで重要なのは将来の金額や企業価値は予測にすぎないということなんです。1年後や2年後の企業価値は、全て仮定の話ですよね。

白井:そうですね。

田中:仮定の数値をもとに割引現在価値計算によって求めたのが企業価値であるとすると、全て仮定の計算になります。将来の企業の価値などフィクションにすぎません。それを信じるには、「この経営者に任せておけばやってくれるに違いない」という、経営者の人物に対する信頼がないと、なかなか難しいのではないでしょうか。

白井:難しいと思います。

田中:やはり、いい経営者でないと従業員は付いてきません。リーダーシップを発揮するためにも、経営者のキャラクターや、マスコミ受けの良さはとても重要です。企業価値のことを考えたら、経営者は自身の写真1枚でも手を抜いてはいけませんね。

 社内外でのコミュニケーションをきちんとしていないと、「この人に任せておけば、将来大丈夫」だとは思えません。会計的な数値で測定される部分は、全部実績で分かります。でも、将来の話を語り出すと、そこに別の要素が入ってしまうからです。

白井:そうですよね。

田中:そこが難しくもあり、面白くもあるところです。会計は今、ファイナンスの要素を取り入れ始めていますが、これは、将来を取り込み始めていることだと言えます。キャッシュフローの見積もりといった話は、減損などの面で会計にも関係しています。

 イタリアで簿記が生まれて500年たち、こんなところまで進んできたのかと思います。この先、どのように将来を取り込んでいくかについては未知数ですが、あまり不安にならずに、楽しんでいかないとだめですね。それが、将来価値を上げることではないかと思います。

ラインアップ(全12回、毎週水曜日掲載)
  • 01 歴史と絵画で学ぶと会計はこんなに面白い
  • 02 簿記と銀行がイタリアで生まれた理由
  • 03 レオナルド・ダ・ヴィンチと決算の深い関係(前編)
  • 04 レオナルド・ダ・ヴィンチと決算の深い関係(後編)
  • 05 オランダの栄枯盛衰と「株式会社」「会計」の誕生(前編)
  • 06 オランダの栄枯盛衰と「株式会社」「会計」の誕生(後編)
  • 07 イギリスで発祥した「鉄道マニア」と減価償却
  • 08 初代SEC長官はインサイダーで大もうけ?
  • 09 会計ルールは「主導権を握った者が勝ち」
  • 10 いかに効率よく働かせるか~原価計算と管理会計の誕生
  • 11 管理職を悩ます「予算」は、あのマッキンゼー教授が始まり
  • 12 「のれん」の正体を知っていますか
今回でこの連載は最終回となります
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田中 靖浩(たなか・やすひろ)
田中靖浩公認会計士事務所所長

1963年生まれ。早稲田大学商学部卒業後、外資系コンサルティング会社などを経て現職。ビジネススクール、企業研修、講演などで活躍する。著書に『会計の世界史』(日本経済新聞出版社刊)『米軍式 人を動かすマネジメント』(同)。田中靖浩公認会計士事務所