全4370文字

田中:「将来キャッシュフロー」という言葉もあり、明るいんです、ファイナンスという学問は。ただ、難しいんです。将来のことは分からないので、数学モデルや統計を使うことになりますから。

今を見たヨーコ、未来を見たマイケル

 『会計の世界史』(注:田中氏の著書、日本経済新聞出版社)という本の中でファイナンスを説明するときに使ったエピソードがあります。ビートルズの楽曲著作権をジョン・レノンとポール・マッカートニーが持っていないという悲惨な話です。

 レノンとマッカートニーは2人で作曲していました。幼なじみの友達同士。「こういうの良くない?」「こっちのほうが良くないかな」とやっているうちに、どっちが作った曲なのか分からなくなっていく。レノン=マッカートニーの共作という形でやっていくんです。

 この、レノン=マッカートニーの楽曲、数百曲の著作権をある会社に移してしまった。これはどうやら節税対策だったようです。イギリスは税金が高いので。

 これが痛恨でした。著作権を譲った会社を上場させたからです。この会社の株式の所有者は転々と変わり、自分たちは楽曲の権利を持てないという状況になった。ポールがやっと権利の買い戻しのチャンスを得たのはジョン・レノンの死後です。価格は当時のレートで90億円に高騰していたそうです。

 自分の楽曲の権利を買い戻すのに90億円。ポールはオノ・ヨーコに相談して、半額の45億円ずつ出して買い戻そうと言った。ところが、オノ・ヨーコは「高い」と言って拒否した。

 そして驚いたことに、マイケル・ジャクソンがこの権利を買ったんですよ。当時のレートで130億円を払ったそうです。

 ここに会計とファイナンスの違いが存在すると私は思います。ヨーコは支払う金である90億円を見て「高い」と思った。それより高い金額を支払ったマイケルは、得たものがいくら稼ぐかを見た。

白井:なるほど。

田中:つまり、ヨーコは「Now(今)」を見た。自分たちが作った曲に何でそんなお金を今払わなければいけないのかと、過去から現在を見てしまった。マイケルは130億円払うことからスタートし、それがいったいどれだけの金を稼ぐかという未来を見たのです。130億円という金額は高かったとしても、それよりも高いリターンを生むのであれば「Go」ですよね。

白井:そうですよね。