田中靖浩(公認会計士):ずっとヨーロッパの旅をしてきまして、イタリア、オランダ、前回はイギリス。今回はアイルランドなんですよ。アイルランドの食べ物でジャガイモというイメージはありませんか。

白井咲貴(日経ビジネス):ありますね。

田中:蒸気機関車が登場した19世紀、ジャガイモ飢饉(ききん)というのがヨーロッパ中に広がりました。疫病がはやってほぼ全滅したらしいんです。アイルランドはジャガイモに頼っていたのに、食べ物がなくなってしまった。

 食い詰めたアイルランド人がiイギリスのリバプールを経由して、どんどんアメリカに移民として渡っていった。その子孫に「SEC」の長官がいます。いきなりですがSECって聞いたことはありますか。「Securities and Exchange Commission」。米証券取引委員会です。

 公正取引を担保する機関の中で、証券市場の公正な取引を円滑に行うようにつくられた機関です。誰もが安心、安全な環境で株式投資ができるように、企業にディスクロージャーを求めたり、投資家が安心して株を買える環境をつくったりする。また、そのために決算書情報をきちんと出すよう指導する。このように、証券市場の監視をするのがSECです。大恐慌の後にこの機関ができましたが、とんでもない悪人が初代長官になっているんです。

銀行で貸出先の経営分析に携わる

 初代SEC長官の祖先は、アイルランドからやって来た移民です。1代目はあまり大したことをしないまま亡くなる。2代目は酒屋などの商売に成功して、政治の世界に首を突っ込み、息子の3代目をハーバード大学に押し込む。政治家ですから、金の力を使ったのかもしれません。

 3代目は、就職もお父さんのつてで州の銀行検査官になります。銀行の監督官庁みたいな仕事です。ここでバランスシートの読み方などを勉強し、銀行の経営が健全であるかどうか調べる仕事をやっていました。

 銀行のバランスシートを見るとは、貸出先の経営も見ることにほかなりませんよね。貸出先が安全かどうか、バランスシートの見方を彼は覚えていきました。そのときにどうやらインサイダー取引をやりまくったみたいなんです。

白井:インサイダー取引は、やっていいんですか?

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