田中:自分で回収しに行かなければいけませんが、旅の道中が非常に危険なんです。泥棒や盗賊のたぐいがいっぱいいて、安全がまったく保障されていなかった。こんな美少年で、弱そうな男の子が大金を持って歩いていたら、間違いなく狙われます。

 実際のところ、商売人の代金回収にはかなりの危険が伴い、お金を奪われるだけならまだましも、殺されてしまうこともあったようです。また、盗賊より怖いものがありましたが、何か分かりますか。

白井:盗賊より怖いものですか……。

田中:商売人にとって盗賊より怖いのは、身内の裏切りです。トンズラもあり得るでしょう。トビアス君はお父さんが盲目だったので、代わりに代金回収に行ったのですが、とても危ない。そのため、彼の道中を守るのが大天使ラファエルなんです。

白井:これはトビアス君を守っている絵なんですね。

500年前に起きたキャッシュレス化

田中:このテーマの絵にはバリエーションがたくさんあって、「助さん、格さん」みたいに、トビアス君の両脇を2人の天使が守っている絵もあるんです。要するにお守りなんです、この絵って。

 繰り返すと、この絵が描かれた当時のイタリアでは、代金回収の道中の安全が保障されていなかった。ということは、お金の出し入れが、商売上の大きな障害になっていたということなんです。

 当時の多くの商売人は、この絵をお守りにするだけではなく、実際に回収した代金を守らなくてはならない。そのために、ボディーガードみたいな強い人を付けることなどもしていたようです。ただ、それにはものすごくお金が掛かるし、ボディーガードが裏切ることがあるかもしれません。

 このように、いろいろな問題点があるときには、ソリューションが出てくる。それがバンコなんです。

 初期のバンコは融資というより、ネットワークを利用したビジネスをしていました。つまり、各地に支店をつくって、A支店で預けたお金を、離れたB支店で引き出せるシステムです。

 その際、為替手形が登場します。手形というのはキャッシュの代用品です。今もキャッシュレス化が進んでいますが、約500年前にも似たようなことが起きていた。現金を持ち歩きたくない商売人がいっぱいいたのです。

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