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徳島県の漁村、美波町に、都心から若き企業人や芸術家が次々と流入し、地元に溶け込み、つながりの深い経済圏を作り上げている。そして、日本最大規模のサテライトオフィス地域に成長した。地域を結束させていった若者たちの物語。(動画をご覧ください)

東京の限界

 始まりは1人の男からだった。

 美波町出身の吉田基晴は10年ほど前、採用難に苦しんでいた。東京でIT企業、サイファー・テックを設立して社長を務めていた。だが、セキュリティー技術の世界では大手に人材が流れ、ベンチャーまでヒトが回ってこない。採用がままならず、業績が伸びない。そんな壁にもがき苦しんでいた。

 「東京に限界を感じた」

 そして吉田は、発想を転換する。東京だから人材がなかなか集まらない。ならば、出身地である美波町にオフィスを構えて、人材を募集したらどうか?

 ウミガメの産卵地としても知られる青く澄んだ海。そして、降り注ぐ太陽に育てられた農産物にも恵まれている。ITの仕事なら、遠隔地にいても、ネット上で連携して進められるはずだ。

 吉田が「美波町オフィス」での募集をかけると、運命の出会いが訪れる。

よそ者が町の中心に

 7年ほど前のこと。首都圏のIT技術者がサイファー・テックを応募してきた。

 「海の近くで、サーフィンをしながら働きたい」

 社長の吉田は、その言葉を聞いて、恋人に出会ったような気持ちになったという。

 その住吉二郎が、7年前に移住者第1号として、美波町のオフィスにやってきた。その直後、秋祭りに参加することになる。毎年10月、美波町は日和佐八幡神社を中心に祭りに沸く。8地区から「ちょうさ(太鼓屋台)」を担いだ男たちが町を練り歩く。クライマックスは、太鼓屋台ごと海に飛び込んでいくシーンだ。祭りが終わると、翌日から1年後の祭りに向けて準備が始まる。町は祭りを軸に動いている。住吉は2度の祭りを体験し、地域に溶け込んでいる実感をつかみつつあった。そんな時、思いがけないことを告げられる。

 「責任者をやってくれないか」

 中心となって祭りを運営するのが「若連中」と呼ばれる20~40代の男たち。責任者になることは、祭りを仕切るトップに就任することを意味する。よそ者が地元の伝統ある行事を仕切っていいのか──。悩み抜き、町の出身者である吉田に相談した。

 「頼まれたんだから、断ることはないだろう」