先端技術は生命科学の分野でも、革新を起こしつつある。遺伝子操作がどこまで進むのか、人間の倫理感が問われることになりそうだ。一方、先端技術が新たなチャレンジを生み出しているのが、宇宙開発の分野だ。かつては国が手掛ける分野だったが、コスト削減が進み、今では、多くのベンチャー企業が宇宙事業に挑んでいる。
ソニーコンピュータサイエンス研究所社長兼所長の北野宏明氏に、先端技術の可能性について聞くインタビューの第2回をお届けする。

(前回はこちらから)

新たな医療技術の発展

前回は、AIやロボットの話を中心にお聞きしましたが、北野さんが今、注目されている技術は何ですか。

北野:生殖細胞系の技術です。iPS細胞(人工多能性幹細胞)を使って、人の卵子と精子を受精させることも今後、技術的に可能になります。しかもゲノム編集のCRISPR-Cas(クリスパー・キャス)で操作もできる。

中国の学者が受精卵をゲノム編集したと発表して、問題になりました。

北野:その通りですね。問題はありますが、技術的にはできるとみんな考えています。代理母出産、さらに今後は人工子宮という話も出てくるでしょう。生殖系と再生医療系を連動させるような技術が出てきますよね。これは非常に大きなインパクトがありますよ。

 例えば不妊治療を受けているような人にとっては、それは朗報になることもあるでしょう。それができるということの人類史的な意味合いというか、技術的な意味合いとか、倫理的な意味合いというのは非常に大きなものがあります。この分野で、日本はトップランナーです。

 また、心筋や網膜などの再生医療系も進んでいます。ただ再生医療系はまだまだいろいろ(課題があり)道のりが長いとも言えます。臓器を作るところまでは行っていません。コストなどの問題もありますし、臓器を作ったとしても、それは臓器移植になり、外科的な侵襲(しんしゅう)の問題もあります。 しかし、まだまだ最終形は見えないけど、徐々に進んでいくでしょう。

<span class="fontBold">北野宏明氏</span><br />ソニー執行役員/ソニーコンピュータサイエンス研究所社長兼所長/工学博士<br />1984年国際基督教大学卒業、日本電気(現NEC)に入社。その後、米国カーネギー・メロン大学に留学。93年ソニーコンピュータサイエンス研究所入社、2011年社長に就任。システムバイオロジーという分野を提唱。AI(人工知能)やロボティクスに関する研究と深い洞察で知られる。ロボカップ国際委員会ファウンディング・プレジデント。
北野宏明氏
ソニー執行役員/ソニーコンピュータサイエンス研究所社長兼所長/工学博士
1984年国際基督教大学卒業、日本電気(現NEC)に入社。その後、米国カーネギー・メロン大学に留学。93年ソニーコンピュータサイエンス研究所入社、2011年社長に就任。システムバイオロジーという分野を提唱。AI(人工知能)やロボティクスに関する研究と深い洞察で知られる。ロボカップ国際委員会ファウンディング・プレジデント。

ほかにも新たな研究が進んでいる医療分野はありますか?

北野:これから出てくるのはやっぱりロンジェビティー(長寿)、老化の制御ですよね。この分野には、今、ものすごい投資がされていて、いろいろな新しい発見があります。

 最近、盛り上がっているのは、NMN(ニコチンアミド・モノヌクレオチド)という物質がかなり老化制御に効くという話題です。マウスに関しては寿命延長効果など、かなり顕著な結果が出ているようです。ただマウスと人間は違うので、マウスでオーケーならそのまま人間でオーケーなわけではないんですよね。