科学的発見をするAIというインパクト
これまで治療できなかった病気も治ったり、原因も突き止められたりするようになる可能性もあります。

ソニー執行役員/ソニーコンピュータサイエンス研究所社長兼所長/工学博士
1984年国際基督教大学卒業、日本電気(現NEC)に入社。その後、米国カーネギー・メロン大学に留学。93年ソニーコンピュータサイエンス研究所入社、2011年社長に就任。システムバイオロジーという分野を提唱。AI(人工知能)やロボティクスに関する研究と深い洞察で知られる。ロボカップ国際委員会ファウンディング・プレジデント。
北野 もちろん、それもあるでしょう。それと私が注目するのが、科学的発見をするAIです。それは人工知能の究極であり、最も価値が高い、インパクトの高いAIシステムになると思います。
生命科学系は非常に複雑です。人間の認知の限界と戦う研究分野ですが、AIを使うことで限界を超えていける可能性があります。生物のシステムはオミックスデータ(編集部注:遺伝子の発現やたんぱく質の構造など網羅的な分子情報)解析などをするのですが、情報量が多くて複雑すぎるのです。シミュレーションも作れないほどです。
そこでAIを使って人間の認知の限界をブレークスルーしていくような、そういう分野でのインパクトが一番大きいと思います。
そうした科学的発見をするAIはいつごろ現実のものになるのでしょうか。
北野 簡単なものはすでに実用化されていますが、5年から10年。本格的なものは、15年から20年かかるんじゃないかと思います。
その間に、ラボのルーティンの実験は、AIとロボットで行い、全データがアーカイブされて、ロボットが正確な実験をするような状況も起こると予測しています。
AIとロボットの組み合わせも進化しています。
北野 どんどん進みますよね、ロボットも。物流分野、いわゆるモビリティーの分野もそうですね。
さらに製造工程でも、ロボット化が進んでいます。ピッキングに始まって、そういうところはかなりの勢いで入ってくるんじゃないかと思います。ランダムに積んである部品なども、ピッキングできるようになってきています。
バラ積みロボットもありますよね。
北野 バラ積みもできるようになっています。今後も、スピードも精度も上がってくるでしょう。
すでに、お弁当にから揚げを配分できるロボットも登場しています。軟らかいものを扱ったり、コンパクトな作業に対応できたりする能力も広がっているので、多くの基本的な作業はロボットが代替できるようになってくるのではないでしょうか。
AI対人間ではない
以前はAIが人間の能力を超えて、最後には世界が滅びるというような、シンギュラリティー(技術的特異点)による将来の悲観的シナリオが語られることがありました。しかし最近は、イノベーションにより、人々の生活はより幸福になっていくという見方が強まっているように見えます。
北野 シンギュラリティー論についてよく聞かれるのですが、僕は全然気にしてないです。全然考えてないです。
今まで機械が人間より能力が高かったというのは、毎回あるんですよ。だって計算器が出てきたら、銀行で人間が数字を数えても勝てないわけじゃないですか。自動車以上に人間が動くことだってできません。工業機械は24時間稼動しても、人間にはできない。こうした状況はずっと起きてきているんです。
今、起きているのは、それに対してもっと知的なところ、例えば認識の能力が上回っているという話です。
ただ、それも人間の能力の中の個別の部分です。全ての人間の能力を上回るといった場合、人間の能力を全て定義することはできません。上回るといっても、その能力に投資価値がなければ、誰も投資しないので作られないのです。人間は結構すごくいいことをしますが、変なこともたくさんやるわけです。仮にその変な部分までコピーしたら、そのAIシステムは結構使いづらいものになると思います。
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