注目の美術展や企画展などのキュレーターが、見どころを語る本連載。単に訪れるだけでは分からないような隠れたストーリーなどもつまびらかにしながら、展示の見どころを語ってもらう。

 先週から4回連続で紹介するのは(今回は第2回目)、現在、日本科学未来館で開催中の企画展「マンモス展」。同館では2006年にも「マンモス展」を開催している。当時は、地球温暖化への警鐘もメッセージとして伝えていた。それから13年。テクノロジーは驚くようなスピードで進化し、同時に地球を取り巻く環境も変わっている。さらに今回は、マンモスの鼻の一部など、世界初公開のものも5点展示している。永久凍土の中から出てきたマンモスの冷凍標本を、本動画で紹介しよう。見どころを解説するのは日本科学未来館の松岡均氏だ。

最初のゾーンの見どころは何でしょう。

松岡氏(以下、松岡):まず入り口に、「ディーマ」という赤ちゃんのマンモスがありますが、これは40年以上前に発掘された冷凍標本です。

 今は防腐処理をしてミイラ化した状態になっていますが、最初発見された時は非常にいい状態で、それまで分からなかったことが、冷凍標本を使うことによって明らかになるんじゃないか、と非常にインパクトを与えた標本です。

 今回、日本には38年ぶりにやってきました。

 ここは「過去」のエリアと呼んでいます。冷凍標本だけではなく、いろいろな化石から当時の様子が分かってきています。またマンモスだけではなく、「マンモス動物群」と言われる、マンモスと同時代にシベリアに住んでいたたくさんの大型哺乳類も展示しています。

 中央に飾っているのはマンモスの化石です。

 マンモスというと非常に大きいイメージがありますよね。けれど実際には、今生きているゾウとそれほど大きさは変わりません。ただ牙に特徴があって、今のゾウよりもかなり大きいんです。

 一番長いものだと4メートルぐらいあるらしく、マンモスは重い牙を支えるために、頭の骨が後ろの方にちょっと尖って、筋肉が付いていたそうです。今のゾウに比べるとかなり特殊な形をしているわけです。

 まだあまり分かってないところもあるのですが、この牙で、雄同士が威嚇し合ったり、氷を持ち上げて餌を食べていたという話があります。

 ケナガマンモス自体は北米や北海道でも発掘されていますが、こういった完全な形で復元できるものは、それほどありません。

 マンモスの頭部、下あごの部分も展示していますが、ここに臼歯と呼ばれている部分が残っています。ゾウは、一生の間で5〜6回、臼歯が生え変わります。

 人間のようにぽろっと抜けて新しく生えるわけではなく、奥からスライド式に生えてくる。けれど化石を見ると、マンモスの臼歯の形は、今のゾウとかなり違っています。当時のマンモスは、下草を鼻で拾って、奥歯で擂りつぶしていたと言われています。今のゾウとは違うということが、ここからもよく分かります。

 マンモスの牙は、一生大きくなり続けるそうです。この牙を調べることで、何歳のマンモスかということも分かります。

 マンモスは最初、骨の化石しか出てきませんでしたから、鼻が付いていたのか分からなかったんです。だからゾウの仲間と分からず、龍のようなものを想像してみたり、違う生き物を想像してみたりしていたそうです。それが、冷凍標本が出るようになってようやく、完全にゾウの仲間だと分かるようになりました。

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