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まずは「片思い」からスタートする

妹川:これは会社と考え方が違うかもしれませんが、私は、将来の転職を前提に入社してくる新卒社員にも投資したいと思っています。そこは「片思い」でいいんです。まずは私たちの方から「片思い」をしないと、彼らからも好かれて「両思い」にはならないと思っていますから。

 ただ、それでも残念ながら若手社員がほかに転職したとします。それでも、JTで得た経験やスキルで成功してくれるなら、それでいいとも感じています。逆に他社で成長して弊社に来る人もいるわけですから。

北野:私が『転職の思考法』という本を出す一つのきっかけとなったのが、グーグルの元日本法人で名誉会長を務めていた村上憲郎さんの言葉でした。

 グーグルには優秀な天才がたくさんいます。けれど、有能すぎて他社から引き抜かれ、すぐに辞めてしまうケースも多い。「それは大丈夫なんですか」と私が聞いた時、村上さんは、次のように問いかけてきたんです。

 「本当に優秀で、3年後に転職してしまうかもしれないけれど在職中は頑張ってくれる人と、頑張っているふりをしながら戦力にならず、この先20~30年も会社にぶら下がろうとしている人だと、どちらが会社にとって必要ですか」と。

 私は間違いなくそれは前者だと思いました。仮に最終的には転職したとしても、やはり一緒に働いている間に成果を発揮してくれた方が、会社にとってもはるかに価値が高い。そういう人は結局、転職した後も「○○出身」「元△△」という経歴で、自社のブランドを高めてくれたりもします。

妹川:表現がとても難しいのですが、採用とはそういうものかなとも思っています。一緒に働く仲間であることには変わらないけれど、働く人にだって会社を選ぶ権利と自由がある。ですから私はいつも、彼ら・彼女らのキャリアの伴走ができればいい、と願っているんです。

終身雇用は終わった、「出入り自由」でいい

古川:私たちも妹川さんと同じ考えで、終身雇用をベースにすべてを設計しているわけではありません。人材輩出会社であると言われることも是としています。

 実際に、一度辞めた人が戻ってくるケースもあります。「三井物産以外の場所で頑張りたい」と外の世界で挑戦した人が、戻りたいと思ったら、また採用しています。きっとこれから先は、どんどんそんな形に変わるのではないかと思っています。

 時々、他社の人事担当者から「三井物産さんは、辞めそうな人を採用していますよね」と言われたこともあります(笑)。そう言われても仕方なくて、私たちはずっとこの会社で働き続けたい、と思う人だけを採用しているわけではありません。

 もちろん結果として、採用した人が社内でやりたいことを見つけてずっと残ってくれればいいとは思います。働く人にとってやりがいのあるプラットフォームを作れるかというのは、我々の力量が問われる部分でもある。けれど仮に、別の場所でやりがいを見つけて出て行って、また戻ってきても、それはそれでいい。「出入り自由」でいいんです。

北野:雇用の流動性はさらに進んでいきます。転職が活発になるほど、新卒社員が見切りを付けるタイミングも早まる可能性は高まります。その時、いかに早期にやりがいを見つけてもらうか。何か工夫をしていますか。

古川:昔に比べると、なるべく早く裁量や職責を与えようという傾向に変わっています。特に最近の学生の皆さんは自分のやりたいことがはっきりしているし、就職したらすぐに活躍できるように準備もしている。しっかりと勉強もしています。そんな人には、やはり納得できる仕事を与えないと満足しないでしょう。ですから、成長できるような器の仕事をきちんと任せるようにしています。

 投資という点でも、やはりもう終身雇用をベースにした研修では通用しないと考えていて、人材教育のタームについても少しずつ見直すべきだと考えています。まさに今、そういう時期に来ていると思っています。

北野:具体的にはどんなことをしていますか。

古川:会社側から社員に押し付けるような研修はどんどん減らしています。40年とか50年の間、同じ職場で働くのであれば、全員に同じような研修を受けてもらうのでしょうが、今は人によって描くキャリアプランはそれぞれです。ですから、学びたい意志のある人に投資をする形に変えているんです。それも、なるべく早いタイミングで学べる機会を数多く設けようと考えています。