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日がたつと魅力を増す「スルメ人材」

古川:変わりましたね。それを「スルメ人材」と呼んでいますが(笑)、要はかめばかむほど味が出てくる学生というのが、やっぱりいるんです。30分くらいの面接だとなかなか良さが見えてこないけれど、2~3日たつと「すごく責任感があるな」とか「リーダーシップがあるな」と見えてくる。

 最終面接は私の上司が実施しますが、時々面接を終えて、「この学生は大丈夫なのか」と聞かれることがあります。私は合宿でその学生を見ているので、自信を持って「大丈夫です」と答えています。「彼は表面的なコミュニケーション能力はそんなに高くないけど、2~3日たつとグループの中でも特に責任感やリーダーシップがあると分かりました」と説明すると、理解してもらえる。

 もちろん合宿採用では、学生側も私たちのことを見ています。「三井物産は変な会社だな」「何かイヤだな」と思うかもしれません。ただ私は、企業と学生がお互いに「いいな」と思い合えていることが理想的だと思うので、そこにはやっぱり時間をかけていきたい。それだけのコストもかかりますが、投資すべき必要なプロセスだと思っています。

北野:実際に「スルメ人材」を採用するようになって、メリットは感じていますか。

古川:現場からの評価が非常に高いと感じています。どの会社でも起こり得るのが採用のミスマッチです。入社した後で、企業も新入社員もお互いに「ちょっと違うな」と思うことは、どうしても起こってしまいます。けれど、合宿採用を始めてからそれが減ったように感じています。

北野:総合商社の場合、事業のウイングが広いがゆえに、配属される部署によっては働き方もカルチャーも大きく変わります。学生にとっては、たとえ内定が取れたとしても、どこに配属されるのか、気が気ではないはずです。

 その点も三井物産は乗り越えようとしていますよね。私たちが主催した合同説明会では、内定した学生が第1希望に配属される割合を具体的な数字を出して紹介していました。私は正直、「そこまで開示するのか」と驚いたんです。確かに世の中の新卒採用では透明化が進んでいる。それでも、実際に数字を出して説明する企業はまだ少ない。なぜそこまで開示したのでしょう。

新入社員の9割を、第4希望までの部署に配置

古川:第1希望の部門に配属される人が全体の6割で、第4希望まで見れば9割が希望の部署に配属されている、と説明しています。情報を開示したのは、我々のやっていることを数字で示したいと思ったんです。

 総合商社の「配属リスク」を気にする学生はたくさんいます。かつて、私たちが学生の頃は、どの部署で働きたいかということはほとんど聞かれませんでした。きっとこれはどの総合商社も同じだったのではないでしょうか。

 ただ今は、やっぱり学生の「何がしたいのか」という思いを大事にしたいし、それをかなえた方が活躍するとも思っています。私自身、この春に入社したおよそ130人の新入社員を全員面接しましたが、採用面接では全員に、どの部門に行きたいのか、なぜそう思うのか、そして本当にその部門のことを理解しているのかを聞いて、できる限り、一人でも多く希望の部門に配属できるように尽力しました。

 それは何も学生に迎合しているわけではなく、彼らがどんな山に登りたいと思っているか、ということなんです。あえて学生の希望とは異なる山を目標に設定する必要はありませんよね。もちろん学生の中には、希望する部門の業務内容を勘違いしているケースもあります。そこは丁寧に説明して、私たちも学生の人柄や本質を理解して、夢や希望をかなえる形で配属先を決めていきたい。そして結果として、9割の新入社員が、第4希望までに挙げた部門に配属されている、というわけです。