2019年3月1日、経団連に加盟する企業などが、2020年春卒業予定の学生の、採用活動を本格的にスタートさせた。多数の企業が本格的に合同説明会などを開催する中、特に大きな注目を集めたあるキャンペーンがある。
「#ES公開中」――。東京・渋谷駅の銀座線改札前に、巨大なポスターが掲出された。ポスター上部にはラックが付き、ある書類が並んでいる。リクルートスーツに身を包む学生らがそれを続々と手に取っていく。無料配布されていた書類はES(エントリーシート)。企業名や学生の個人情報は伏せられているものの、広告、IT、商社、金融など、就活生に人気の高い企業の、書類選考を通過したリアルなESがずらりと並んでいた。
本キャンペーンを仕掛けたのは、就活クチコミサイト「ONE CAREER」を運営するワンキャリア。同社の北野唯我・最高戦略責任者は、「“平成の就活”を終わらせるべきだと思った」とその思いを語る。2020年卒の新卒学生を採用する今年の就活は、経団連の定めたルールにのっとった「最後の就活」でもある。これまで続いてきた就活の何が終わり、そして次にどんな採用スタイルが求められるのか。学生側の本音と企業側の変化について、衝撃のキャンペーンを仕掛けたワンキャリアの北野氏が、計4回にわたって解説していく。
連載の3回目と4回目には、新時代の新卒採用や人材育成に挑み始めた大手企業2社、三井物産と日本たばこ産業(JT)の採用責任者が登場。両社とも現在、新卒採用に対して挑戦的な取り組みを実践している。なぜ新卒採用で新たな取り組みに踏み切ったのか。話題は新卒採用ばかりでなく、企業の中での人事のあり方や、ビジネスパーソンの働き方の未来などに広がっていった。
(構成/日経ビジネス編集部 日野なおみ)

北野氏(以下、北野):新卒採用で新たな試みを実践している三井物産とJTの採用責任者にお話を聞いています。両社がなぜ新しい挑戦に踏み切ったのか。鼎談(ていだん)の前編(「学生を集めて合宿も!? 三井物産、JTの新卒採用が激変」)では、そこに込めた思いを伺いました。
お二人とも、旧来型の新卒採用の仕組みに違和感を覚えていて、それを変えようと踏み切った。同時に、人事も時代の変化に合わせて変わらなくてはならないと感じていらっしゃる。
私自身、企業経営において、人事は非常に重要だと思っています。そして世代を超えて成長し続ける会社は実際に、どこも人事を重視している。ただ一方で、どうしても人事は「投資」に対する「リターン」が見えてくるまで時間がかかります。誰の成果なのかということも分かりにくい上に、批判も受けやすい。
例えば三井物産の「合宿採用」やJTの「突き抜ける人財ゼミ」も、社内で「こんなにお金をかけて」と批判される可能性だってあるはずです。新しい挑戦に踏み切るには、それを説得する必要もある。お二人は、どのように壁を乗り越えたのでしょうか。
三井物産・古川氏(以下、古川):既成概念にとらわれても仕方ありませんし、それを受け入れてもらえるかどうかは、社風にもよると思います。JTさんも代々、挑戦を受け入れる社風ですし、三井物産も「挑戦と創造」を企業理念として掲げているので、新しい取り組みに対する抵抗は、実はあまりありませんでした。
私自身は、合宿採用に踏み切った段階で、他社の人事担当者から「よくそんなことができましたね」と言われました。けれど、そんなに難しいことではないと思うし、少なくとも社内で「意味がないのではないか」という議論はありませんでした。大切なのは、私たち自身が挑戦を通してどう変えたいか、ということです。
JT・妹川氏(以下、妹川):つまり、そういった思いを持てるかどうか。それはとても共感できます。
古川:合宿採用を始めたのはなぜか。私たちが採用したいと思うのは、単にコミュニケーション能力が高い学生ではありません。けれど、30分の面接で見えてくるのは、どうしても学生の表面的な部分に限られてしまいます。学生だって鎧を着て面接に臨みますから、当然でもある。そうすると、どうしたってお互いになかなかよく分かり合えません。
特に私たちが本当に見たいと思っている責任感やリーダーシップというのは、30分話を聞いただけでは分からないんです。本来なら、半年とか1年とか、もっと時間をかけてお互いに知り合うのが理想なのでしょうが、今の環境からするとそれも難しい。その中で、少しでも長く時間をかけようということで、数日間の合宿をやったらどうかと考えたわけです。
北野:実際に合宿採用を通して見えてくる学生の姿は変わったのでしょうか。
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