仕事は「登山」のようなものかもしれない
妹川:古川さんのお話で同感するのは、私たちも会社を主語にすると、やはり会社の将来や社会の大きな変化の中で求める人材像は変わっています。
目の前の課題を解決するより、もう一歩進んで、問いそのものを立てられるようにならないといけません。「問い」を立てられる人材がこれから大事になることだけは、間違いありませんから。世の中にある「問い」が本当に重要なことなのか。それは私たちの課題でもあるのか。そういったことを見極める力が、以前にも増して重要になっています。
北野:先日、ある対談で「一流の人とそうでない人」を分けるのは何かという議論をしました。その中で私が話したのは、「良質な問いに最高の知性が集まる」ということでした。わくわくするような「問い」に、最高の知性が集まってくる。それは一つの真理だと思います。ただ一方で、採用活動の過程でそういった学生を見抜くのは大変なようにも感じます。お二人は、どのように学生の「課題設計能力」を見極めているのでしょうか。

古川:これは答えになるか分かりませんが、我々はいつも「何かにチャレンジしていますか」と聞いています。よく学生さんからも、「面接では何を見ているんですか」と聞かれますが、私はいつも「皆さんの生きざまを見ているだけです」とお答えしています。
もちろん、入社してから何をしたいのかということも聞いてはいます。ただそれよりも、どういうふうに生きてきたのかを私たちは知りたい。小学校、中学校、高校ではどんなことに悲しみ、何を楽しんできたのか。どんなことに充足感を覚えたのか。そして、どんな挑戦をしてきたのか。
「挑戦」はやはり極めて重要なことです。それは何も、素晴らしい経歴や実績を求めているわけではなくて、小さなことでもいいから学問やスポーツ、アルバイトなどで毎回、自分で目標を設定して、それに挑戦してきたかということです。
挑戦とは、登山のようなものだと思っています。山になんて登らなくたって生きていけます。それなのに平穏な生活からあえて抜け出して山に登ろうと考えて、計画を立て、動きだす。登りはじめると1歩目から苦しくて、状況次第では凍死しそうにもなるし、吹雪に直面することもある。危険だし苦しいのに、なぜ一歩ずつ足を踏み出すのか。それはおそらく、登りきった先に、何ものにも代え難い充足感や満足感があるからです。だから、挑戦する。
私たちの仕事も登山のようなもので、その過程は苦しくて大変かもしれないけれど、目標を設定して、それが成就した先には大きな達成感がある。私たちは、そういうことがやりたいかどうかを、学生の皆さんに聞いています。
妹川:「挑戦」という言葉から学生を見る、というのはとても同感します。過去に何か、身の丈でいいから挑戦してきた人や、挑戦できた人は多分、その大変さも達成感も知っていますから。ただ一方で、これまで挑戦をしてなかった学生が挑戦できない人間なのかというと、それはまた違うような気がしています。
多くの学生にとって、終身雇用はもう当たり前の価値観ではありません。人生100年時代を迎え、「現役」でいる時間はこれまでよりもぐんと長くなります。これまで、人生は3分の1ずつだったのではないかと思います。「大人になる前」と「社会人」「老後」がそれぞれ同じくらいの長さだった。けれどこれから先は、人生100年のうちの、半分くらいは働くことになるはずです。半世紀の間、1社で働き続けることもあれば、50年を前半と後半で分けて2社で働くこともあるでしょう。
そう考えると、その人が挑戦できる、つまり挑戦に対する思いが発芽するタイミングが、社会人になってから訪れても、おかしくはありません。そこをどう見極めるか。そしてどのように挑戦に向かわせていくかということも、同じように重要になるのかもしれません。
新卒採用でまさかの合宿?ゼミ?
北野:「何に挑戦をしてきたのか」「目の前の課題や前提を疑い、自分で課題を設定ができるか」。新卒採用の現場を見ていると、学生にそう聞く企業は比較的、多いように感じます。ただ私が歯がゆく感じるのは、では企業の採用担当者は前提を疑って、昨年までとは違う挑戦をしてきたのか、ということです。学生に挑戦を求める一方で、あなたたちは果たしてそれを実践してきたのか、と。
そんな中、三井物産もJTも、明確に企業側が新卒採用で「挑戦」をしています。例えば三井物産は2017年から採用形態を大きく変えていますよね。多くの企業が6月に新卒採用を終える中、6月以降も年間を通じて採用活動を実施するようになりましたし、夏には宿泊型の「合宿採用」をスタートさせています。採用するための「合宿」というのは印象的です。
JTも、2013年からは「突き抜ける人財ゼミ」として、学生向けのリーダー養成プログラムを実施し、日本のトップレベルの講師と学生が交流できる場を設けています(編集部注:2018年9月に軽井沢で実施した「突き抜ける人財ゼミ」には、経営コンサルタントの波頭亮氏や脳科学者の茂木健一郎氏、ロフトワークの林千晶代表、執筆家の尾原和啓氏を招き、2泊3日の間、学生らが講義やディスカッションを実践した)。
「変われない人事部」が多い中で、この両社が変わった、言い換えれば、ひと足踏み込んだ取り組みをスタートさせたのは、なぜでしょう。
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