内定を取るためだけの不毛な手間

学生の意識は確実に変わったわけですね。それを受けて、就職活動そのものに変化はあるのでしょうか。

北野:もちろん、バブル経済の頃とは変わっているはずです。「行けば受かる」という時代ではありませんから。

 ただそれ以降の就活では皆さん、ES(エントリーシート)で苦戦していることは事実です。今の就活で学生が費やしている時間のうち、およそ7~8割は、とにかく内定を取るための作業なのではないかという説もある。

 「ESをきれいに書くため」「面接でうまく自分を見せるため」……。もちろん、これも大事なプロセスだとは思います。けれど、内定を取ることだけのために膨大な時間が割かれて、学生が自分のキャリアや人生を考える時間は、全体のうち2~3割しかないとも言われています。ここに問題がある。

解決することはできるのでしょうか。

北野:「受かるための時間」をハックすることは、これまでだと早稲田や慶応のように縦のつながりの強い私立大学しかできませんでした。早慶などの一部の限られた大学では、先輩がESの書き方を教えてくれたり、実際に自分の書いたESを見せてくれたりしていたわけです。

 私たちは、学生が費やしているこの7~8割の時間は、あまり重要ではないと考えています。だからこそその部分を効率化して、もっと重要な「自分がどういう人生・キャリアを歩みたいのか」を考える時間に使ってほしいと思っています。

 そんな思いで実践したのが、「#ES公開中」のキャンペーンでした。さらに就活クチコミサイト「ONE CAREER」に登録すれば、どこの大学の学生でも、彼らが希望する企業でこれまで実際に就活生が書き、書類選考を通過したリアルなESを見ることができる。現在では、約3万6000のESを見放題にしています。

「ONE CAREER」では約3万6000通のESを無料で公開している
「ONE CAREER」では約3万6000通のESを無料で公開している

就活にも「赤本」があっていい

書類通過したESを就活生に公開する。企業側からは嫌がられそうです。

北野:確かに、最初は企業の人事担当者の方にも怒られました。不快に思う気持ちも理解はできます。

 ただ大学受験には、過去の出題を集めた「赤本」がありますよね。この赤本は過去問集であると同時に、私は大学側のメッセージでもあると考えています。過去問を通して、どういう学生に入ってもらいたいかということを、大学側が伝えているわけです。

 就活も同じように、ESで求められる内容などを明らかにすることは、企業のメッセージであるとも考えられる。どういう学生に応募してもらいたいのか、どんな技術や知見を身につけてもらいたいのか。採用工程がクリアになることで、学生側も応募する企業のことがより明確に分かるようになるはずです。

 そんな説明を重ねていくと、私たちがやってきた「ES公開」を応援する企業も少しずつ、増えてきているんです。

企業の求める学生像がクリアになれば、採用のミスマッチを防ぐこともできるのでしょうか。

北野:リクルートキャリアが運営する「就職みらい研究所」の調査でおもしろいデータがあります。企業が採用基準で重視するものは何ですかという質問で、実に76%の企業が、「自社への熱意」と回答しています。一方で学生の熱意は25%くらいしかない(就職みらい研究所の「就職白書2017」より)。

 私の感覚値としても近いと思います。それぞれの企業に応募する学生が、本気で「私は御社でしか働きたくありません」と考えているかというと、決してそうではありませんよね。つまり企業側と学生側の熱意のギャップも横たわっている。そうしたすれ違いを、少しでも解消することが必要なんだと思います。

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