スタートアップ企業から大企業まで、経営者や経営幹部、各分野のリーダーたちが集まってビジネスコンテストやトークセッションなどを繰り広げる「Industry Co-Creation(ICC)サミット」。大きな影響力を持つこのイベントで、旬の起業家・経営者たちは何を語り合っているのか。またビジネスコンテストでは、どのようなスタートアップ企業が注目を集めたのか。

 日経ビジネスでは、2019年9月に京都で開催された「ICCサミット KYOTO 2019」を取材。今回は新たなコラボとして、新企画セッション「ライジング・スターを探せ」に参画した。

 現在、日本で最も多くのベンチャー経営者や幹部、投資家などを集めるスタートアップのイベントとなったICCサミットだが、有名になる前の起業家たちの横顔は、なかなか垣間見ることができない。そこで本セッションでは注目のスタートアップの起業家3人を招き、それぞれの「素顔」に迫った。

 登壇したのは、建設現場などを中心に独自の施工管理アプリ「ANDPAD(アンドパッド)」を提供するオクトの稲田武夫社長と、プログラミング不要のアプリ開発プラットフォーム「Yappli(ヤプリ)」を提供するヤプリの庵原保文社長、そして製造現場などに欠かせない特殊金属加工品の価格や納期の見積もりを約7秒で算出するシステムを提供するキャディの加藤勇志郎社長。スタートアップ企業に詳しいUBS証券マネージングディレクターの武田純人氏と日経BPの日野なおみがモデレーターを務めた。セッションの前編では3人の経営者たちが起業に至るまでの経緯について聞いた(詳細は「会社員生活が修行の場、イマドキの起業家はいきなり起業しない」)。続く中編では迷ったときやストレスを抱えたときにどう対処するのかなど、意思決定の下し方について聞いた。(取材日/2019年9月4日)

(右から)UBS証券・武田純人マネージングディレクター、キャディ・加藤勇志郎社長、ヤプリ・庵原保文社長、オクト・稲田武夫社長、日経BP・日野なおみ
(右から)UBS証券・武田純人マネージングディレクター、キャディ・加藤勇志郎社長、ヤプリ・庵原保文社長、オクト・稲田武夫社長、日経BP・日野なおみ

UBS証券・武田純人マネージングディレクター(以下、武田):セッションの前半では、3人の経営者の皆さんがどんな経緯で起業したのかというお話をうかがいました(詳細は「会社員生活が修行の場、イマドキの起業家はいきなり起業しない」)。

 続いて、皆さんがご自分をどんな経営者だと思っているかという点についても、事前に聞いています。これが3人から返ってきた自分自身の経営者像です。少し恥ずかしいかもしれませんが、なぜそう思うのか解説してください。

キャディ・加藤勇志郎社長(以下、加藤):「超速意思決定型」というのは、自分で意識していることです。それができているかは別ですが。毎週水曜がミーティングの日で、その中で全部意思決定すると決めているんです。宿題は持ち帰らず、その場で決める。やっぱりスピード感が何よりも大事だと思うので。

ヤプリ・庵原保文社長(以下、庵原):僕はまったく逆なんです。後で出るかもしれませんが、「困ったらどうするか」という質問にも、「見送る」と書きました。意思決定をしないんです。これは、これまで実際に、見送って良かったというケースが何度もあったからなんです。

 つい最近も、非常に規模の大きなお客さまから個別開発をしてくれないか、という大型発注の打診がありました。非常に大きな案件だったのですが、僕たちは原則、お客さんに合わせた個別開発をしていません。

 完全に1社のためだけに開発すると、確かに一瞬はもうかるけれど、SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)で続けようとすると、追ってとても困ることが増えてくる。結局、結論が出せなくて意思決定を見送りにしていたら、そのお客様自体のシステムがトラブルに見舞われてしまって……プロジェクトそのものがなくなりました。意思決定しなかったことでリスクを避けられることもあるんだな、と改めて思ったんです(笑)。

武田:面白いですね。稲田さんは「サービス開発型」とあります。自分でサービスを開発するんですか。

オクト・稲田武夫社長(以下、稲田):やっていた時期も多少あるんですが、今は全然やっていません。ただ開発のコストや納期、品質を管理したり、設計したりするのが好きなんです。建築・建設業界は独特の世界なので、それを理解しながらプロダクトを考えるのは難易度が高いし、それはリーダーである自分がしないといけない仕事だとも感じています。そこで、この9月からは、私の肩書を「CEO兼CPO」に変えようと決めました。

 サービスの開発に、より自分の時間を割いていく。それ以外の業務を任せられるようになってきましたし、会社を俯瞰(ふかん)的に見て自分をどこの役割に当てはめるのがよいかと考えていて、プロダクトチームのトップに立つのがいいとも感じたんです。

武田:ありがとうございます。まずは3人がどういった経営者かという全体像をうかがった上で、さらに皆さんの素顔を見たいと、もう1つの問いかけをしています。「経営判断に迷ったときや行き詰まったときはどうしますか」というものです。

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