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 スタートアップ企業から大企業まで、経営者や経営幹部、各分野のリーダーたちが集結して、ビジネスコンテストやトークセッションなどを繰り広げる「Industry Co-Creation(ICC)サミット」。大きな影響力を持つこのイベントで、旬の起業家・経営者たちは何を語り合っているのか。またビジネスコンテストでは、どのようなスタートアップ企業が注目を集めたのか。日経ビジネスでは、2019年2月に福岡で開催された「ICCサミット FUKUOKA 2019」を取材。同サミットで注目を集めた起業家のインタビューや、話題を集めた旬の経営者たちのトークセッションを紹介する。今、実際にイノベーションを起こしている起業家、経営者たちの視点を知れば、新時代のビジネストレンドが見えてくる。

 「ICCサミット FUKUOKA 2019」では開催期間中に、計70以上のセッションが開催された。その中でもサミット終了後の参加者投票で満足度ベスト10に入ったのが、「組織のWell-beingとは何か?」だった。

 昨今、組織運営などでは「Well-being」という言葉を耳にするようになった。だが、その実態はまだあまり知られていない。本セッションには、いち早く組織の「Well-being」に取り組んで結果を出している先端企業の経営陣が登壇。多様なアプローチで、「Well-being」に向き合っている様子を赤裸々に語ってくれた(構成/宮本恵理子、情報は2019年2月20日の取材時点)。

(写真左から)モデレーターを務めたチームボックス代表取締役・日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクターの中竹竜二氏、予防医学博士の石川善樹氏、楽天CPO(チーフ・ピープル・オフィサー)の小林正忠氏、ネットプロテクションズ代表取締役社長CEOの柴田紳氏、LIFULL CPO(チーフ・ピープル・オフィサー)の羽田幸広氏、CRAZY代表取締役社長の森山和彦氏

 セッションの前半では、登壇者がそれぞれの会社で、どのように「ウェルビーイング」を実践しているのか明かした(詳細は前編「『生き生き働ける』最先端企業は一体、何をしているのか」)。だが、社員が生き生きと働く環境を整えるのは決して簡単なことではない。セッション後半はCRAZY代表取締役社長・森山和彦氏の疑問に登壇者らが答えることから始まった。その様子を見てみよう。

CRAZY代表取締役社長の森山和彦氏(以下、森山):今日は皆さんに伺いたいことがあって。それは幸せと感じる体験を、いかに相対評価から遠ざけるかということです。

 社員のウェルビーイングを高めるために色々な施策をやっているのだけれど、「そうはいっても楽天と比べたらね」と他社との比較が始まると、幸せは感じにくくなってしまいます。「うちの会社で働けることは幸せだな」という実感を絶対評価で揺るぎないものにするのは、とても難しいと感じているんです。

予防医学博士の石川善樹氏(以下、石川):評価についての国際比較で、興味深い研究があります。ある対象を10点満点で評価する時、西洋人は10点を基準にした減点方式でスコアを決めることが多いのに対して、東洋人は中央値の5点を基準にして足し引きしていくのだそうです。つまり「人並み」であることを起点にする。

 ところが、同じ組織環境に長くいると「人並み」がどの程度のものなのか分からなくなってくる。恵まれた環境であっても、だんだんと慣れるにつれて当たり前になっていって、理想のハードルが上がっていく。だからLIFULLさんのように「日本一働きたい会社」に選出されると、大変ですよね(笑)。

CRAZY代表取締役社長の森山和彦氏

LIFULL CPO(チーフ・ピープル・オフィサー)の羽田幸広氏(以下、羽田):(深くうなずく)

森山:斬新な企画を始めても、いずれは当たり前になっていきます。社員の求めるハードルがどんどん高くなるというプレッシャーは、常に感じています。

チームボックス代表取締役・日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクターの中竹竜二氏(以下、中竹):組織のレベルが上がっていることには間違いありませんが、経営者としては苦労しますよね。

楽天CPO(チーフ・ピープル・オフィサー)の小林正忠氏(以下、小林):人間ってどうして比較してしまうんでしょうね。うちの会社でも、社員の健康や生活をサポートする施策は色々と実施していて、朝食もタダ、昼食もタダ、夕食もタダ。入ってきた時にはみんな「すげー! 超感動!」と言っていたけれど、数カ月もたてば慣れます。

 さらに上を求め続けるから、いつまでたっても満足できない。本来は、「今日もまた新たな1日が始まる」というだけで素晴らしいはずなのに、そこに感動できなくなってしまうのは……。

羽田:残念ですよね。石川先生、どうしたら、比較することをやめられるんでしょうか。

石川:うーん、脳を取り換えるしかないんじゃないですか(笑)。というのは半分本当で、ほかの哺乳類にはない人間の特徴として、「他人の体験から学べる力」というものがあります。自分が未体験のものでも、他人の体験から学べるのが人間の能力なんです。だからこそ、他人のことが気になるし、つい自分と比較してしまう。そういったクセがプログラミングされているんじゃないでしょうか。

中竹:ミラーニューロンという神経細胞の働きとして知られているものですね。

石川:逆に期待値が下がるのは大病をした時です。命に関わる病にかかると、「当たり前」のありがたさが分かる。これを組織経営に置き換えると、毎日無料で提供していたランチを一定期間やめてみるということも有効かもしれません。

中竹:そういった厳しさと優しさの揺らぎというか、揺さぶりというのか、楽天はすごくうまい気がします。

小林:最近、2000年入社の社員から送られてきたメールに、グッとくる言葉がありました。