「ウェルビーイング」ってどう測る?

石川:ではどんな体験がウェルビーイングを高めるのに有効なのか。ここに挙げた体験の10項目は、組織心理学のリサーチでよく聞かれるものですが、ここに「幸せを感じるか」という項目は入ってきません。

■ポジティブ体験■ネガティブ体験
・よく眠れた・体の痛み
・敬意を持って接された・心配
・笑った・悲しい
・学び/興味・ストレス
・歓び・怒り

中竹:なぜ「幸せを感じるか」という項目は入ってこないんですか。

石川:国際標準になりづらいという理由からです。「幸せ」という感覚は、国や地域によって閾値(いきち)が違います。恐らく今日、この会場に米国人がいたら、「I’m happy to be here.」と言うかもしれません。けれど、日本人やドイツ人は簡単に「幸せです」とは言いません。

 そういった国や地域による閾値にズレがない項目として抽出されたのが、この10項目です。そして、ホワイトカラー1万人を対象に調査して分かったのは、特に日本人にとって重要な項目が次の2つでした。それは、「周りから敬意を持って接されたか」と「雑談の中でよく笑う機会があったか」です。

 「敬意」とは、「信頼」と同意と理解していただいていいと思います。「信頼」とは、人として大事にされているという実感のこと。理性的判断からなる「信用」と比べて、より感情的な結びつきです。

 つまり職場のウェルビーイングにつながるのは、周囲からの信頼を得つつ、雑談を通して笑える体験です。しかもそれが、1日の終わりや、何かの区切りの最後に強く印象付けられると評価は高くなる。これが現時点でのウェルビーイング研究の“最小にして最大のモデル”です。

中竹:ありがとうございました。では今の解説を踏まえて、楽天の「チーフ・ピープル・オフィサー(CPO)」という、最もウェルビーイングに直結しそうな役職に就くセイチュウさん(編集部注:小林正忠さんの呼称)、いかがでしょうか。

楽天CPOの小林正忠氏
楽天CPOの小林正忠氏

雑談をするのがCPOの仕事

楽天CPO(チーフ・ピープル・オフィサー)の小林正忠氏(以下、小林):うちの会社は社名からしてポジティブですが(笑)、社員がウェルビーイングについて日々考えているかというと、そうではない気がします。

 仕事内容は、うちの会社だからこそできることが多くて楽しい。でも、ハードです。「それ、本当に今期中にやるの?」みたいなお題がどんどんと降ってきます。そうすると、自分が想像すらしていなかった場所まで、いつの間にかたどり着いているんです。

 振り返ると、「めちゃめちゃいい経験ができたなー」ということが、私自身も多かったです。英語が全然できなくて、TOEIC300点台だったのに、英語を鍛えざるを得ないミッションを与えられて、まさかの米国本社の代表として赴任したり。

石川:渦中では大変だったけれど、後から振り返ると非常に評価が良くなる、と。確かに体験と評価は結構難しい関係にあるのは事実です。人はどうしても自分の限界を低く見積もりがちなので、ちょっと負荷のある課題を与えられると不安になる。でも、ラクな体験を選ぶと「もっとできたんじゃないかな」と後悔することもある。

中竹:だからこそ、「次は成長しよう」と思える面もありますね。

石川:そうですね。評価をうまく設計しようとすると、体験を犠牲にしないといけないことも間々あると思います。それでも、離職率の改善といった効果につながるのは、やはり評価を高める施策なんです。

小林:そう言われて、今気づきました。(楽天社長の)三木谷浩史は、きっと自分の評価を全く気にしていませんね。「社員からこう思われたい」は気にせず、「もっと面白い体験を提供したい」という思いが強いタイプです。1997年に会社をつくった時からずっと、「世界一の会社になる」と言い続けていますから。とても納得しました。

 あと、先ほどの石川さんの解説の中でうれしかったのは、「雑談がいい」という部分です。実は私は、生まれながらのおしゃべりでして、会社の中でも色々なフロアを歩き回っては、雑談ばかりしています(笑)。

石川:それがCPOの大事な仕事なんですね。

小林:そうなんです。人の心に寄り添うことが私の仕事でして。

次ページ 給与まで!社長と同じ情報を社員で共有