
政府が支援を推進していることもあり、日本でもスタートアップへの注目度が高まっている。国内のみならず、大企業による海外のスタートアップへの出資や協業も今以上に増えるだろう。投資対象やオープンイノベーションを推進するためのパートナーとして、真っ先に挙がるのは米国やアジアだが、世界にはまだポテンシャルを秘めた国がいくつもある。
その一つがロシアによる軍事侵攻を受けているウクライナだ。実は戦争が始まる前から、ウクライナでは一旗揚げようとスタートアップを立ち上げる人が少なくなかった。戦争が長期化する中で、ウクライナのスタートアップの現状はどうなっているのだろうか。
もともと、ウクライナは欧州で最も貧しい国の一つとされてきた。「有望なスタートアップを輩出している国」というイメージを持つ人はほとんどいないだろう。だが、ウクライナ人の創業者が米国などで起業してユニコーン(企業価値10億ドル以上の未上場企業)となったケースはいくつかある。
例えば、評価額130億ドルのデカコーン(企業価値100億ドル以上の未上場企業)となった英文ライティング支援サービスのGrammarly(グラマリー)、2021年8月にユニコーン入りした営業支援ツール提供のPeople.ai(ピープル・ドット・エーアイ)、21年10月に米ナスダックに上場を果たしたソフトウエア開発支援サービスを提供するGitLab(ギットラボ)はいずれもウクライナ人が創設した。そのほか、チャットツール提供のWhatsApp(ワッツアップ)やフィンテック企業のRevolut(レボリュート)の共同創業者もウクライナ出身だ。
国内市場にフォーカスしていたスタートアップは破綻
「ウクライナのスタートアップの特徴の一つはグローバル志向が強いこと。ウクライナ国内の経済が脆弱なため、スタートアップはかなり初期の段階からグローバルに展開することを目指す」と語るのは、ウクライナとポーランドに拠点を構えるEUCON Legal Groupの弁護士、アンドリイ・ロマンチュク氏。ウクライナ出身だがポーランドに長く住んでおり、ウクライナ、ポーランドのアクセラレーションプログラムやスタートアップコミュニティーのメンターなども務める。
戦争が始まってしまったことで、「ウクライナの国内市場にフォーカスしていたスタートアップはほとんどが破綻してしまった」(ロマンチュク氏)。一方、従来、グローバル志向だったスタートアップは、比較的早い段階で拠点やチームの一部を海外に移した。グローバル化がスケールアップだけでなくリスクヘッジにも有効に働いた。
ウクライナのスタートアップが直面している最大の課題は資金調達。市況の悪化の影響などでスタートアップによる資金調達は世界中で厳しい状況が続くが、特にウクライナは戦争に巻き込まれたことでより困難になった。
「スタートアップは厳しい現状を打開する方策を探している。戦争のせいで通常より早く成長をしなければいけない状況に陥っており、グローバル化がより後押しされた側面があるかもしれない」(ロマンチュク氏)
戦時下のウクライナで、スタートアップはどのようにもがき続けているのか。ビジネスを継続させているスタートアップに直接、話を聞いた。
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