魔神がランプから呼び出されてしまった

 ディープフェイクという魔神がランプから呼び出されてしまった今、大切なのはシミュレーションの対象となる人からしっかりと同意を得ることだ、とオンラインの安全性に取り組む活動家や研究者、ソフトウエア開発者は指摘する。だが、言うは易く、である。乱用のリスクを踏まえて、合成ポルノに関してはもっと厳しい措置を提唱する声もある。

 合成メディアの検知・監視を行う企業センシティーがまとめた2019年の報告書によると、ネットに投稿されたディープフェイク動画1万4000点以上を対象としたサンプル調査では、同意を得ないディープフェイク・ポルノが96%を占めた。報告書は、ネット上のディープフェイク動画の数は、6カ月ごとに約2倍になっていると指摘した。

 報告書の共著者の1人で、AI企業メタフィジックでポリシーとパートナーシップの担当部門を率いるヘンリー・ アジダー氏は「今のところ、ディープフェイクがもたらす危害の大部分は、圧倒的に、ジェンダーに基づくデジタル暴力だ」と指摘。同氏の調査では、世界全体では何百万人もの女性がディープフェイクの標的になっていることがうかがわれる。

 結果的に、ディープフェイクのアプリが明示的に「ポルノ制作用」ツールとして販売されるかどうかで「大きな違い」が生まれてくる、とアジダー氏は述べた。

 「たった1秒でディープフェイク・ポルノができる」とうたうアプリが利用していたオンライン広告ネットワーク、エクソクリックは、ロイターの取材に対し、この種のAIによる顔交換(フェイススワップ)ソフトには馴染みがなかったとした。このアプリの広告配信を停止し、無責任な顔交換技術の宣伝には加担しないと表明した。

 エクソクリックで広告コンプライアンス部門を率いるブライアン・マクドナルド氏は、「私たちにとっては不慣れなタイプの製品だ」と語った。同社は他の大手広告ネットワークと同様に、クライアントに対し、どこに広告を配置するかの判断を自分でカスタマイズできるダッシュボードを提供している。

次ページ 広告ネットワークから排除の動きも