12月16日、認知症の新薬「アデュカヌマブ」の承認審査を行っていた欧州医薬品庁(EMA)欧州医薬品委員会が「非承認」という勧告を出しました。欧州で非承認になる可能性は以前から取りざたされており、今後の薬の販売に暗雲が垂れ込めるという見方が強まっていたことなどから、開発を進める英バイオジェン、エーザイの株価は今年6月のピーク時より4割以上も下落しています(12月17日時点)。

 アデュカヌマブは、認知症の最大の原因であるアルツハイマー病の初の“根本治療薬”として6月に米国FDA(食品医薬品局)が販売を承認したことが話題になりました。日本でもこの1年余り承認審査が行われており、この22日に、可否を話し合う厚生労働省の専門部会が開かれる直前のニュースでした。

 なぜ、米国と欧州連合(EU)で判断が分かれたのでしょうか。そして22日に予定されている日本での承認審査に影響はあるのでしょうか。

 認知症は、いま日本はもちろん、世界で大きな課題となっています。その初の“根本治療薬”といえば希望となるニュースのはずなのに、どうして混乱が起きているのか。その背景を解説します。

アデュカヌマブとはどんな薬か

 認知症の最大の原因・アルツハイマー病がどうして起きるのか、ここ20年ほど最も有力とされてきたのが、アミロイドβという物質がすべての引き金だとする「アミロイド仮説」です。

 アミロイドβは、脳の神経が活動する時に生まれる「ゴミ」のようなものです。アルツハイマー病にかかった人の脳を顕微鏡で見てみると、あちこちにアミロイドβがたくさんたまったシミがあります(老人斑)。さらに家族性アルツハイマー病(生まれつきアルツハイマー病になりやすい家系)の人を調べてみると、アミロイドβの発生に関わる遺伝子が通常とは違っていることが分かりました。

 これらの研究から、「アルツハイマー病とは何らかの理由で脳の中でアミロイドβがたまるようになってしまい、それを引き金として脳の活動が衰えていってしまうのではないか?」と考えられるようになっています。

 アデュカヌマブは「アミロイドβに対する抗体薬」です。この薬は、体内に入るとアミロイドβにくっつき、体の外に排出しやすくする働きをします。その結果、アミロイドβが脳の中にたまりにくくなります。

 こう説明されると、アデュカヌマブがアルツハイマー病を防ぐのは当たり前に思えてきますよね。

 しかし、話はそれほど単純ではありません。

 実はこうした「アミロイドβにくっつく抗体」はこれまで、米ファイザーやスイス・ロシュ、米イーライリリーなど世界の名だたる製薬企業が開発競争にしのぎを削ってきました。開発の最終段階まで進み、患者さんや予備軍(軽度認知障害:MCI)と診断された人に実際に投与する大規模な臨床試験もたびたび行われてきました。

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