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 なぜ『LANCET』に掲載された論文では、「基本的に飲酒量はゼロがいい」と言い切っているのでしょうか。飲酒と健康についての研究を手がける筑波大学の吉本尚准教授に聞いてみました。

 「この論文は、1990年~2016年にかけて195の国と地域におけるアルコールの消費量とアルコールに起因する死亡などの関係について分析したものです。この論文では最終的に、健康への悪影響を最小化するアルコールの消費レベルは“ゼロ”であるとしています。つまり、全く飲まないことが健康に最もよい、と結論づけているのです」(吉本さん)

 酒好きにとっては酷ともいえる“ゼロ”という2文字。吉本さんによると、かなりインパクトがある論文として研究者の間で話題になったそうです。

 「今回の研究結果のグラフを見ると、純アルコール換算で10gくらいまではリスクの上昇はあるものの緩やかで、それより多くなると、明確に上昇傾向を示しています。つまり、飲むなら少量がいいよ、でもできたら飲まないほうがいいよ、ということですね」(吉本さん)

アルコール消費量とアルコール関連疾患のリスクの関係
縦軸は相対リスク。横軸はアルコールの消費量。1単位は純アルコール換算で10g。(Lancet.2018;392:1015-35.を基に作成)

研究者も驚いた「飲酒量は“ゼロ”がいい」という結論

 かつての「Jカーブ効果」の研究では、少量の飲酒は心筋梗塞などの心疾患のリスクを下げるため、全体の死亡リスクも1日当たり20gぐらいまでは下がる傾向にある、とのことでした。それなのになぜ、『LANCET』の論文ではゼロのほうがいいと言っているのでしょうか。

 「確かに、この論文でも虚血性心疾患(心筋梗塞など)については以前と変わらず、『少量飲酒で発症リスクが下がる』という結果が出ており、その部分ではJカーブが確認されています。しかし、乳がん、結核などほかの疾患のリスクは少量飲酒においても高まっていくので、心疾患などの予防効果が相殺されるのです」(吉本さん)

 『LANCET』に掲載されたこの論文は、研究者からすると「やっぱり出たか!」という感じだったとか。

 「もちろん、1つの論文で結論を出すのは危険です。いろいろなデータを見て判断する必要があります」と吉本さんは前置きしつつも、「この論文の登場で、多くの医師・研究者が『少量飲酒が体にいいとは言えなくなってきた』と感じるようになっていると思います」とのこと。

 実は、これまで研究者の間では、Jカーブのグラフにおける「全く飲まない人の死亡リスク」が高過ぎるのでは? と疑問に思われていたそうです。「『LANCET』の論文でその点がクリアになったのは大きいでしょう。また、飲む人より、飲まない人のほうが、がんの発症リスクが低いという点についても裏付けの1つになったと考えています」(吉本さん)。

 この結果を見ると、「適量までなら健康にいいから」と大手を振って飲むことはできないのかもしれません……(涙)。