一般社団法人「Marriage For All Japan-結婚の自由をすべての人に」(MFAJ)は11月、同性婚や性的指向・性自認に基づく差別の禁止など、LGBTの人の権利を法制度として保障していることと、国民1人当たりGDP(国内総生産)が相関関係にあるとする「婚姻の平等が日本社会にもたらす経済インパクトレポート」の日本語版を発表した。
LGBTインクルージョンな社会と経済との関連性はどのように考えられるのか。EY Japanの貴田守亮COO(最高執行責任者)に尋ねたインタビューの後編を公開する。
前編に続き、後編では、貴田氏に、LGBTに対する法制度が整っていない日本の現状に対する考えや、企業がLGBTインクルージョンで果たすべき役割について語ってもらった。
昇進では影響がなかったということですね。リーダーシップ像を考えたとのことでしたが、同僚たちとの人間関係の面では変化があったのでしょうか。

EY Japan COO
カリフォルニア大学音楽部卒、カリフォルニア州立大学で経営科学、会計の修士号取得。1996年、EYニューヨーク事務所に入所。2007年7月にパートナー。エネルギー、テクノロジー、ライフサイエンス、消費財、商社など様々な業種の企業への監査およびコンサルティング業務に携わる。ロンドン、シリコンバレーなどでの勤務を経て、2016年9月に東京に赴任。16年7月からEY Japan Deputy Area Managing Partner、19年7月からEY Japan COO。カリフォルニア州の公認会計士。
貴田守亮・EY Japan COO(以下、貴田氏):カミングアウト後は「どこまで隠しながら話したのか」を考えなくてよくなったことが非常に楽です。
私は2014年に英国人の男性と結婚して結婚指輪をしているのですが、そうすると「お子さんはいるのですか」という話題になることもあります。
私が「同性のパートナーと昔は子供も考えていたのですが、実はいないのです」などと答えると、一瞬、緊張感が流れたとしても、今まで特に大きな問題はありませんでした。
社内でも社外でもこのような会話の後は、自然な会話ができるようになる。よく理解できない私のことを受け入れてくれている寛容さにとても感謝しています。寛容、と感じるのはエイズなどにネガティブなレッテルを貼られた時代を生きてきた私だけかもしれませんが。
LGBT+の当事者は常にカミングアウトを考えて行動しなくてはなりません。初対面の方と話をしたり食事をしたりすると、いつ家庭や家族の話になるのか、と絶えず気になり、ストレスを感じている方が大半です。法律で守られていない国ではなおさらです。私がカミングアウトをする一つの理由は、セクシュアリティーを自分だけで抱え込む重荷と考えずに、仲間とシェアしよう、と決めたことにあります。
MFAJが公表した今回リポートでは、LGBT+を巡る法制度の状況と、生産性に相関関係があるとされました。経済活動とLGBT+インクルージョンとの関係をどう感じているでしょうか。
貴田氏:今回のリポートを見ていくと、当事者の従業員は生活や就業の安定が守られていないため、生産性が10%以上低くなるということが記されています。
LGBT+の当事者が差別される状況では、自分のセクシュアリティーが他人に知られることへの恐怖感から精神疾患にかかるリスクが高まります。また自分のセクシュアリティーが知られる前に離職を繰り返す人も多いので、長期的にキャリアの構築が困難になり、その人の生涯年収が低く抑えられてしまうという傾向もあります。
社会的関係性の中で自分らしくいられない当事者は、自分の持てるエネルギーを全て出せるわけではありません。GDPが人口の1人当たりで低く抑えられてしまうというのは想像しやすいことです。
EYでも、英国や米国、オーストラリアでは、社員のエンゲージメント指数を図る調査の中で、自認するセクシュアリティーと、そのことを「公表しているか」を尋ねています。社内でカミングアウトしている人のエンゲージメント指数というのは、カミングアウトしていない人よりも、5~10%高いことが明らかになっています。
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