実際、今回の逃亡犯条例改正案についても、懸念を示した建制派とされる議員・関係者は多くいた。だからこそ香港政府は逃亡犯条例の審議を諦めざるを得なかったのである。

 建制派は、結果として中国政府に寄り添った意思決定を行うことが多い。経済政策においては、建制派の意見と中国政府の意見の隔たりは少ないからだ。大陸から観光客が多くやってくれば彼らが経済的に潤うのは間違いない。また、香港が人民元のオフショア(中国本土外)の拠点となれば香港の金融センターとしての地位を強化することも彼らを経済的に潤わせることになるだろう。しかしそれは必ずしも建制派が中国共産党のイデオロギーに賛同することを示しているわけではない。逃亡犯条例改正案のような、香港の現状に対する著しい挑戦については中国政府の意向にかかわらず彼らも反対するのである。

 中国国営の新華社通信などの報道を見る限り、中国政府は香港の状況と抗議者たちの論理を理解していないか、無視しているように見える。また、香港政府・行政長官は政治的決断に慣れていないと一般的に言われる。建制派もいまだ大きくは動かないし、彼らに抗議者の見ているものはそう簡単に理解できないだろう。現在の香港の政治は誰にも操作できないものになっていると言えるだろう。

大陸側にとって一国二制度は台湾も含めた「祖国統一」の手段であるが、香港にとってもそれが同じとは限らない(深圳にて)
大陸側にとって一国二制度は台湾も含めた「祖国統一」の手段であるが、香港にとってもそれが同じとは限らない(深圳にて)

 民主派も多様な存在である。香港独立を目指すグループもあれば(独立派)、香港を中国の一部として中国本土の民主化を香港から進めていこうとするグループもある(伝統的な民主派)。もはや中国本土の問題は香港に直接関係あるものではなく、香港が香港自身の民主化を目指すべきだというグループもある(民主自決派)。

 植民地から一国二制度へという歴史は、香港を近代国家システムの空白地帯に仕立て上げた。国のようであって国ではない存在であり、複雑さと曖昧さが香港の捉え方を人によって異なるものにしている。

 また、こうした背景から「政治のプロ」がいないことも、香港の悲劇の要因だろう。返還前に香港政庁でトレーニングされた人を除けば、香港政府の官僚は基本的に政治的な問題の対処にあまり慣れていない。そのセンスと力量の欠如は、林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官のこれまでの対応と発言を見れば自明であろう。だからこそ建制派は政府の決定に様々な影響力を与えてきたわけだが、経済的利益で結びついた建制派にしても政治のセンスを持っているわけではない。中国の政治研究者は「中国政府は自らの影響力強化のために建制派に政治的能力を持つことを許さないだろう」と述べており、中国政府も建制派が政治的決定力を持つことを望んでいないのだろう。

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