低賃金によるモチベーションの低下。そして、新型コロナウイルス禍による経済不安の高まり。大手企業で断行される早期退職。さまざまなフラストレーションが渦巻く中、「組織に雇用される」ことから脱却したいと考える人が増えている。
「仕事は好きですか?」。人によっては失礼にあたる質問かもしれないが、人生にとっては重要な問いだ。企業勤めをしている人であれば、平日は通勤時間を含めると1日9時間以上を働いている会社にささげている。人生のうち、これほどの長い時間労働しているのだから、もしかしたら家族や恋人といった、愛する人との時間や自分の好きなことをする時間より長く会社に奉仕しているのかもしれない。
当たり前だが人生の時間は有限だ。これほどまでに仕事が人生の多くの時間を占めるのだから、好きな仕事をやっていないのであれば不幸だろう。
しかし、冒頭の問いに対して「好き」と明確に答えられる人は多くないはずだ。多くの研究機関が実施した「仕事の満足度」を測る調査では、日本における仕事への満足度はいずれも最低レベル。日本人の仕事への低い満足度の背景には、待遇の問題があるのかもしれない。日本人の賃金が他国と比較して全く上昇していないことは、報道などを通して広く知られている。働いていても賃金が上がらないのであれば、モチベーションを失い、満足度も高まらないことに納得できる。
日本の失業率は、世界的に見ても圧倒的に低い。コロナ禍を経た2021年9月時点の完全失業率はわずか2.8%でしかない。米国や英国の失業率はそれぞれ4.8%と5.2%であり、先進国の中でも最も低い水準にあることが理解できるだろう。経済学の観点(フィリップス曲線)から言えば、低い失業率は高い賃金上昇率を示す。しかし、そうはなっていないのが残念なところだ。
もちろん、日本人の仕事に対する満足度が低いのは、待遇の問題だけではない。人間関係や日本の職場ならではの問題点なども指摘されている。しかし理由はなんであれ、仕事に対するモチベーションが低いなら、「こんな仕事早く辞めたい」と思うのは必然だ。しかし、「生活はどうなる?」「ローン支払いは?」「子供の学費は?」といった現実的な問題が頭をもたげる。こうした鬱屈とした日本人のジレンマが「FIRE」への興味を駆り立てる原動力となった。FIREは今や多様化する人生観の一つになりつつあるのだ。
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