今度は「豚の飛行艇」と欧州でコラボ?

八谷:出会えたのはルータンだけではなかったです。イタリアのモデナから来たミルコ・ペコラーリさんという方にも会いました。「エアクラフトのデザイナーで、自動車の仕事もしている」と言うから、てっきり日本で言うカー・デザイナーみたいな人かと思って話をしたんですけれど、後で彼の会社のホームページを見たら、かなりがっつり航空機設計に関わっている方でした。

松浦:Designerという言葉には、美術的な意味のデザインと、設計という両方の意味があるから。

八谷:そうそう。それでそのミルコさんが、M-02Jにものすごく興味を示して、これをイタリアに持ってこないか、と言うんです。しかも自分は今、宮崎駿監督のアニメ映画「紅の豚」に登場する紅いサボイア飛行艇(サボイアS.21試作戦闘飛行艇)を作ろうと思っている。一緒に並べて展示しよう、と言うんですね。

松浦:ええっ、この旅、後半は米国の西海岸チノで零戦と並べて展示したんですよね。今度はイタリアで豚の飛行艇ですか!

八谷:もちろん模型ではなくて、実際に自分が乗れる飛行艇です。しかも彼は、「カプロニ航空博物館につてがあるから、そこに並べて展示しよう」と言ってきました。

松浦:え? え、え?? 待って下さい。カプロニって同じく宮崎監督の「風立ちぬ」に出てくる二郎の魂の師匠ですよね。ラスト、夢の草原の中で二郎に「君の10年はどうだったかね?」と問いかける人……。

八谷:北イタリア・トレントの空港横に、ジャンニ・カプロニ航空博物館というカプロニさんの名前を冠した航空博物館があって、彼の設計した飛行機を展示しているんです。そでミルコさんのサボイア飛行艇と、このメーヴェことM-02Jを並べて展示しよう、と、まあそういう話を持ちかけてきたんですね。

松浦:それ、実現したらすごいです。というか、これも説明がいるかもですね。宮崎駿監督の「風立ちぬ。」に登場するジャンニ・バチスタ・カプロニ(1886~1957)は架空のキャラクターではなくて、実在の航空機設計者です。第1次世界大戦と第2次世界大戦の間に活躍した人で、主に大型の旅客機や飛行艇を開発しました。「風立ちぬ」では、ヘンテコな格好の巨大な飛行艇が飛ぼうとして壊れて、見ていたカプロニがカンシャクを起こすシーンがありますが、あれはカプロニCa.60という実在の機体で、あの分解事故も実話なんです。

 そのカプロニの博物館にM-02Jが展示されるとなったら、そりゃもう感無量ですよ。

八谷:一気呵成にありがとうございます(笑)。正直まだどうなるかは全然分からないのですが、そんな話もあって、実現するといいな、と。

エンジン破損で西海岸のフライトを断念

八谷:月曜日に始まって日曜日に終わるという、大規模なお祭りの最後は、みんな自分の飛行機で飛んで帰って行きます。最新鋭の軍用機も、何十年も昔のヴィンテージ機も、もちろん自分で作ったホームビルト機も、「来年またね」って感じで、ウイットマン空港からどんどん飛び立って行きます。これはこれで、見ていて楽しいものでした。

 でも、僕らはその後があって、ショーが終わると、近くのワウパカ空港という小さな飛行場に移って、M-02Jを飛ばしました。事前準備の段階ではエアショーで飛べなかった場合を想定してワウパカでの飛行をセッティングしたんですが、ショー本番でも飛べたし、米国の空をもっと何度も飛ばそうと思ったんですね。

 8月1日と2日にワウパカ空港で合計6回のフライトを行いました。天気も味方して好調に飛べたんですが、ここでトラブルが起きちゃったんです。8月2日の3回目のフライト着陸後、機体から異音が発生しているのに気がつきました。最初は機体のどこかにネジの緩みかなにかがあって、共振しているのかと思ったんですが機体は異常なしでした。

 そこで一旦格納庫に戻して再度エンジンをかけると異音が発生したので、停止させてからじっくり観察すると、エンジン前方、高速回転するコンプレッサーのブレードに、欠けが発生してました。

ワウパカ空港での飛行。
ワウパカ空港での飛行。
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エンジンのコンプレッサー・ブレードを破損してしまった。
エンジンのコンプレッサー・ブレードを破損してしまった。
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