松浦:えええっ。今すぐ飛ばすっていったって、ショーの会期中ですからフライトプラン目白押しで、いきなり割り込ませるわけにはいかないですよね。
八谷:そこは伝説のロックスターですから、周りの言うことなんか聞かないんですよ。僕が「水曜日のエアショーで飛ばしたんですけど、今日はフライトの許可がありません」と常識的なことを言うと「わっはっは、日本人はいつもこうだ。ここはアメリカだ。法は破るためにあるんだ。さあ機体を表に出そう」とか言い出して(笑)。
「ルータンが言うんだから、これはもう仕方ないぞ」と思って、機体を格納庫の外に出しました。みんなルータンのことは知っていますから、ルータンが面白い機体を見ているぞ、と、人がわらわら集まってきます。
松浦:で、飛んだんですか。
八谷:相当悩んだんですが、さすがに無理でした。だって、メインの滑走路では事前に立てた予定に従ってばんばん飛行機が飛び回っているんです。でも、ルータンはそんなこと気にしない。「滑走路が使えない」と言うと、「なら、そこの道路から飛んじゃえばいい。全然OKだ」とか言ってくるんです。
松浦:ここが滑走路だ、ここで飛べ、ですか……よっぽど飛んでいるところを見たかったんだなあ。ルータン、御年76歳ですね。全然枯れてない。飛行機の鬼というか、悪ガキというか。
八谷:性格は完全にジャイアンですね(きっぱり)。「機体を表に出した時点で、君は規則を破っている。なら飛ばしても同じじゃないか」とか言うんですよ。「仮に君が刑務所行きになっても、ここにいるみんなが保釈金を寄付してくれる。そうだよね?」と周囲に呼びかけたら、何しろルータンの言うことだからみんな「イェー!」と手を挙げて賛成するんです。
松浦:無責任だなあ(笑)。
八谷:「いや、でもさすがに滑走する距離が足りない」と言ったら「じゃあ、あそこに展示している機体を全部どかそう。全部私が設計した機体だから、私が頼めばみんなどけてくれるさ」って。もう本気なんだかジョークなんだか、ルータン劇場状態で……「明日も来るから」と帰って行ったので、さんざん悩んでホームビルダーズ・ハンガーの責任者とも飛ばせないかと相談したんですが、やっぱり無理だという結論になりました。
松浦:「面白いんだな? ならばやっちゃえ」で生きてますね。漫画家のあさりよしとおさんが言ったのだったか「この世にはやって良いことと、やったら面白くなることしかない」ってモットーをそのまま実行しているというか……。
八谷:あ、そのモットーいいですね。まったくそんな感じです。本当は、この場にM-02J設計者の四戸哲さんがいてくれたら良かったんですけれど。今回四戸さんは、オシコシに来ていなかったんです。四戸さんの会社のオリンポス社員の方が何名かは来ていて、飛行も手伝ってくれたんですが。
松浦:M-02Jの前で「ルータンVS四戸」の対面ってのは、それは見てみたかったですね。
八谷:僕がオシコシで飛んだことで、なにか変化はありましたかって四戸さんに聞いたら、海外からの問い合わせが増えたそうです。「M-02Jを見て『設計者は誰だ』って考える人がけっこういるんだなあ」って言ってました。
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