10月11日、政府は外国人のビザなしでの短期滞在や個人旅行の受け入れの再開、1日当たりの入国者数の制限や空港での入国時検査の撤廃などといった新型コロナウイルスに関する水際対策の大幅緩和を始める。同日には国内旅行の新たな需要喚起策「全国旅行支援」も始まる予定で、観光業界復活への期待は高まる一方だ。岸田文雄首相としても一連の政策を政権浮揚につなげたいところ。3日の所信表明演説では訪日外国人(インバウンド)旅行消費額の目標を「年5兆円超」に据えた。ただ、政府が取り組むべきはそのような「目先」の数字を追い求めることだけなのだろうか。

「円安のメリットを最大限引き出して国民に還元する政策対応を力強く進める」。岸田文雄首相は10月3日、所信表明演説でこう力強く語った。その上で訪日外国人(インバウンド)旅行消費額を年間5兆円超まで増やす目標を掲げた。インバウンド客数が3000万人を超えた2019年の消費額は4兆8000億円ほどだったことを鑑みれば、コロナ禍で一度は地をはった消費額を5兆円超まで高める目標は野心的に見える。
ただ足元では19年に比べ、円安が大きく進行している。日銀によると、60ほどの国・地域に対する8月の円の実質実効レートは19年同月に比べ約25%下落している。日本での観光、買い物の割安感が強まる中、岸田首相は11日からの水際対策緩和を踏まえてこの目標を掲げている。
「安いニッポン」に頼るだけ?
つまり、「開国」と円安による「お得感」をフックにしてインバウンド客増を実現していく、と言っているに等しい。本来は再燃しつつある世界の海外旅行需要を開国を機に日本で取り込みつつ、円安による訪日客の購買力の高まりを単価向上につなげ、観光事業者の収益力を高めていくというのが「円安のメリットを最大限引き出す」ことになるはずだ。そのニュアンスは所信表明演説からうかがえない。
政府に求められるのは観光業界の稼ぐ力を高める政策誘導だ。拍車がかかる「安いニッポン」の現状に乗っかるという発想のみでは真の「観光立国」は果たせないだろう。もっとも、政府も無策というわけではない。現場からは様々なアイデアが飛び出している。
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