消費税の金額を正確に計算するためのインボイス制度(適格請求書等保存方式)開始まであと1年となった。しかし、制度に登録が必要な企業のうち7割が未対応で、準備が遅れている。放置すると納税の負担が増しかねず、取引関係の見直しが広がる可能性もある。フリーランスとして働く人やギグワーカーも対応を迫られるケースがあり、注意が必要だ。

 インボイスとは「適格請求書」のことで、従来の領収書や請求書の項目に、消費税率や税額なども加える。2019年に10%と8%の税率ができたため、企業が「仕入れ税額控除」の額を正しく算出するための制度として23年10月からスタートする。いきなり導入すると混乱するので4年という周知期間を設けたが、まだ悠長に構えている企業も多く危険な状況だ。

 仕入れ税額控除とは、消費税を納めるときに認められている措置だ。例えばA社が110円の商品をB社から仕入れて、消費者には220円で売ったとする。ここでA社の売上高のうち、消費税額は20円分となる。ただし、A社がB社から仕入れた金額にも10円分の消費税が含まれており、これはB社が納税するものだ。このためA社は20円から10円を差し引いて、この取引に対応した納税額は10円となる。

国税庁によると9月現在、課税事業者の約300万社のうち、インボイス制度に登録したのは3割にとどまっている(写真:イメージマート)
国税庁によると9月現在、課税事業者の約300万社のうち、インボイス制度に登録したのは3割にとどまっている(写真:イメージマート)

 こうした控除が認められなければ、企業はより多くの消費税を納めることになる。1つの商品をつくるために多くの取引先が関係している企業ほど、注意する必要がある。

 ところが、国税庁によると、消費税を納める「課税事業者」の約300万社のうちインボイス制度に登録したのは9月時点で3割にとどまる。新制度が始まると、登録していない事業者と取引しても、仕入れ税額控除を受けられなくなってしまう。6年間は経過措置として一定の猶予もあるが、前半の3年間は8割までの控除、後半の3年間は5割までとなっている。

 その場合、買い手企業にとっては納税額が増える。このため、インボイスに未登録の事業者に対して、取引関係を見直すケースが広がる可能性がある。製品やサービスの売り手企業にとっては死活問題となる。買い手企業は、自らの会社が対応済みかどうかに加え、経理のシステムや業務フローが十分対応できるかどうかも確認が欠かせない。

影響の大きい外食産業

 年間の売上高が1000万円以下の個人事業主や零細企業などで、消費税の納税義務を免除されている「免税事業者」も対応の必要なケースがある。

 例えば飲食店だ。札幌市で公認会計士・税理士事務所を営む熊谷亘泰氏は「会社が催す飲み会などにも影響が出る」と話す。忘年会や歓送迎会の費用は、福利厚生費などとして会社が負担するケースも多い。従来は領収書や請求書に取引年月日など必要事項が書いてあれば、仕入れ税額控除の対象にできた。23年10月以降は、こうした飲食店がインボイスを発行できないと認められなくなる。

 テレビドラマにもなった小説「これは経費で落ちません!」のように、飲み会を開いた会社の中で経理部門から「この領収書ではダメです」と指摘されるかもしれない。そうなると「課税事業者になっているレストランや居酒屋を探そう」というケースが増えることになる。

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