9月29日の投開票で事実上の次期首相が決まる自民党総裁選をテーマにした連続インタビュー。最終回は、国際政治学者の中西寛・京都大学大学院教授に、外交・安全保障について聞いた。

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4人の候補者の主張について、どのようにみていらっしゃいますか。

<span class="fontBold">中西寛(なかにし・ひろし)氏</span><br />京都大学大学院法学研究科教授。専門は20世紀の国際関係史など国際政治学、安全保障論。主な著書に『日本政治史の中のリーダーたち 明治維新から敗戦後の秩序変容まで』(伊藤之雄氏らとの共編著)、『高坂正堯と戦後日本』(五百旗頭真氏との共編著)など
中西寛(なかにし・ひろし)氏
京都大学大学院法学研究科教授。専門は20世紀の国際関係史など国際政治学、安全保障論。主な著書に『日本政治史の中のリーダーたち 明治維新から敗戦後の秩序変容まで』(伊藤之雄氏らとの共編著)、『高坂正堯と戦後日本』(五百旗頭真氏との共編著)など

中西寛・京都大学大学院教授(以下、中西氏):外交・安保は総裁選の主要争点ではないかもしれないが、その分、4人の候補は、自民党の枠内で個性を見せていると思う。自民党支持層の幅は、広くカバーできているのではないか。

 高市早苗さんが一番のタカ派、岸田文雄さんと河野太郎さんはともに中間派だが、岸田さんは伝統派で河野さんは変革派、野田聖子さんがハト派といったところだろうか。総裁選や個人のウェブページを見る限りは、高市さんと野田さんは外交や防衛について政府職についておらず、総務大臣など内政が中心だったように思う。岸田さんは安倍晋三政権で長い間外務大臣を務め、河野さんは外務大臣の期間は短くとも防衛大臣も担った。そうした背景、知識の差が、スタンスの違いに出ているように思う。

具体的には、どの点で違いを感じられますか。

中西氏:高市さんは、防衛費をGDP(国内総生産)の1%から2%に引き上げるという目標を掲げている。確かに、欧州諸国の一部や韓国も2%を超えており、目標値としておかしいということはない。ただ、現在の日本の防衛予算を約5兆円から10兆円に増やすのは財源をはじめ、ハードルが高い。河野さんや岸田さんら外務大臣や防衛大臣の経験者は、現実を知る故に慎重なのではないか。

 例えば河野さんは安全保障に関して、予算や装備より「ヒト」の話だと語っている。今日本の防衛力で最も足りていないのは、ヒト・モノ・カネのうちヒトだろう。予算増額は世間にも分かりやすいかもしれないが、ヒトがいなければ予算や装備を増やしても実効性は伴わない。

ヒト不足とは、具体的にどのあたりでしょうか。人数の不足ですか。

中西氏:人数もそうだが、質だ。2018年に改訂された「防衛大綱」では、「多次元統合防衛力」の構築が掲げられた。陸海空という従来の領域にとどまらず、宇宙、サイバー、電磁波という新しい領域における力を融合し、防衛力を備えるという考え方だ。

 ただ、宇宙やサイバーを強化するといっても、自衛隊には圧倒的にその分野の人材が不足している。人材がいないのにカネとモノ(装備)を調達しても、機能しないのではないか。少子高齢化で自衛隊員の高齢化が進んでいるので、数も足りていないのは間違いないが。

 高市さんは、北朝鮮による拉致問題について「平壌に自ら乗り込んでも」と話しているが、小泉純一郎元首相の04年訪朝以来、無条件での首脳会談を提案した安倍長期政権でも実現しなかった。特に金正恩政権は「拉致問題は解決済み」という姿勢で一貫しており、高市さんが意気込んでも、北朝鮮が拉致で交渉する可能性は低いだろう。

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