9月29日投開票の自民党総裁選(告示は17日)には、岸田文雄前政調会長、高市早苗前総務相、河野太郎規制改革相の3氏が正式に出馬表明した。アベノミクスの継承を掲げた菅義偉政権の後継はどのような経済政策を目指しているのか。その中身と課題について、政府の経済財政諮問会議委員、規制改革推進会議委員などを歴任した八代尚宏昭和女子大学副学長・現代ビジネス研究所長が解説する。

(写真:アフロ)
(写真:アフロ)

 日本の事実上の新しい総理大臣を選出する、自由民主党の総裁選挙が9月29日に行われる。3人の候補者の著書やホームページで公表された政策ビジョンのうち、経済政策に関わる部分についての主要な論点について展望する。なお、筆者のアベノミクス自体の評価も岸田氏の部分に含まれている (拙著『日本的雇用・セーフティーネットの規制改革』で詳述している)。

岸田ビジョンの副題は「新自由主義からの転換」だが

 最初に立候補を表明した岸田文雄氏は「新しい日本型資本主義」を掲げる。岸田ビジョンでは、アベノミクスの成果を踏まえて「三本の矢」の継承とともに、経済の正常化を目指しつつ財政健全化の旗も堅持する。また、新自由主義からの転換と、成長と分配の好循環を目指すとしている。この「日本型資本主義論」では、アベノミクスの何を継承して、何を変えるのかが、大きな論点となる。

 アベノミクスの三本の矢では、金融緩和や財政の拡大政策は十二分に実現され、円安を通じて株価や地価等の大幅な回復に貢献した。しかし、肝心の日本経済の成長力を押し上げ、生産性を向上させるための成長戦略はほとんど実現されず、その結果、資産所得と雇用者所得との差は拡大した。

 このため、景気回復にもかかわらず、実質GDP成長率は、バブル崩壊後の1991年から民主党政権末期までの21年間平均の0.95%と比べて、安倍政権時の2013年から20年まででは0.3%(コロナ不況の20年を除けば1.1%)と、大差ない水準にとどまった。この間、生産年齢人口の減少もあり、失業率は2%台に低下したが、実質賃金はほとんど上がらなかった。これと同じ政策を今後も継承するのだろうか。

 岸田ビジョンでは、アベノミクスは高所得層から低所得層への「トリクルダウン」に失敗したという認識がある。株高等で資産家や大企業の利益は増えたが、中小企業や非正規社員にはほとんど効果はなく、都市と地方との格差が拡大したことを問題視する。このため「令和版所得倍増」で、子育て世代や医療、介護、保育の現場で働く人の所得引き上げのために、公的価格評価検討委員会を設置するなど、中間層への所得配分を重視するが、その財源には触れていない。

 岸田ビジョンの副題には、「新自由主義からの転換」とあるが、これは同じ批判を繰り返す立憲民主党などと同じなのだろうか。本来、新自由主義とは、政府の市場への介入を最小限度にとどめるという考え方だ。安倍政権での財界への賃金引き上げ要請、残業時間の上限設定、所得にかかわらず国民全員への一律給付金、企業が負担する休業手当の大部分を政府が補填する雇用調整助成金の拡大等は、むしろ旧民主党政権と大差ない「大きな政府」路線ではなかったか。

 他方、持続的な賃金引き上げをもたらす、生産性向上のための政策は、掛け声だけでほとんど実現していない。労働界の抵抗が大きい雇用の流動化や、年功賃金是正のための同一労働同一賃金政策は腰砕けとなり、誰も反対しないマクロ政策の拡大だけの片翼飛行となった。少なくとも第2次安倍政権の政策を、新自由主義と呼ぶことには無理があろう。

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